触れられなくても、君がいい。


 ホテルの事務室で、今週の宿泊予約の確認作業に追われていると、引き戸が開いた。

「兄貴」

 現れたのは、共にホテルを運営している弟の(よう)だ。

悠也(ゆうや)、来たけど」

「え?」

 突然出た、幼馴染の名前。
 パソコンの画面から視線を外す。

「……あれ。『約束してる』って言ってたけど。違った?」

「してない」

 即答した。
 アポ無しでふらりとやってきて、適当な嘘をついて上がり込むのは、昔からのあいつの常套手段だ。

「で、どこにいるの」

「兄貴の部屋で待ってるって」

「…………」

 嫌な予感がして、無言のままキーボードを叩く速度を上げた。
 余計なものを漁られたりする前に、戻らなければ。