触れられなくても、君がいい。


「……なに言ってんの?」

「…………」

 冗談だと思ったけれど。
 小宮山は、いつもの軽い調子とは違う、気恥ずかしさを耐えているような強張った表情をしていた。

『小宮山は、夏帆のことが気になっているのではないか』

 以前、友達から言われたことが、頭をよぎる。

 今、隣にいるのは。
 毎日顔を合わせ、同じ教室で言葉を交わし、沈んだ私へ不器用に手を差し伸べようとしてくれている男の子。

 それでも、やっぱり――。

 この胸を占めるのは、去年の夏、たった数日会っただけの、あの海辺の街にいる彼だった。

 私はどうしようもなく航が好きなのだと、思い知らされた。