触れられなくても、君がいい。


「もう授業始まるだろー」

 彼も同じ塾に通っているのだ。

「……わかってる」

 五メートルほどの距離があるため声を張る彼とは違って、私の口から出たのは掠れた呟きだった。
 それしか、音にできなかった。


 小宮山は階段を降り、私の横顔をじっと覗き込んできた。
 そして。

「なに? 失恋でもしたん?」

 からかうようなトーンで、尋ねてきた。

「……っ」

 図星を突かれ、胸の奥が収縮する。
 言い返す気力もなく、濁った川へと視線を戻した。

「え、当たり?」

「…………」

 沈黙が落ちる。
 黙っていればそのうち、小宮山も先に行くだろうと思っていた、そのとき。


「じゃあ、俺と付き合えば?」


 唐突な提案が投げられ、驚いて彼を見た。