触れられなくても、君がいい。

 ◇

 塾は、大きな川沿いにある。

 まっすぐ向かわず、遊歩道へ降りた。
 川べりのコンクリートに立ち、手すりに寄りかかってぼうっとしていた。

 日はすっかり暮れ、立ち並ぶビル群の窓明かりや、街灯のオレンジ色が、水面に反射し揺らめいている。
 時折、車の排気ガスと、川特有の淀んだ匂いが混じった風が吹き抜けていく。

 航の住む街の海とは、違う。
 灰色で、濁っていて、底が見えない水。

 早めに家を出たのに、しばらくそこにいた。
 ひどく熱を持った目の奥を、少しでも冷やしたかったのだ。

 腕時計を見ると、授業が始まるまで十分を切っている。

 そろそろ行かなきゃいけないのに。
 足に鉛が入ったように、動けない。


「委員長ー?」


 ふと、頭上から日常の声が降ってきた。

 ゆっくりと振り返る。
 遊歩道の上から、クラスメイトの小宮山が、リュックを背負った姿で私を見ていた。