触れられなくても、君がいい。

 ◇

 夕飯のあと、自分の机に向かい、小さな灯りを点けた。
 淡い光に照らされるのは、大切に飾ってあるシーグラス。

「…………」

 引き出しからそっと、いつものレターセットを取り出した。

 彼と繋がれる、ただひとつの手段。

 最初は文字を交わせるだけで嬉しかったはずなのに、いつからだろう。
 私のことを、特別だと思ってほしい――。
 膨らんでいく欲張りな気持ちで、苦しくなっていく。

 お気に入りのペンを握り、真っ白な便箋に視線を落とす。

 いつもなら『今日は塾でテストが返ってきて最悪だったよ』なんて、他愛のない話から書き始めるのに。
 春風に煽られたのか、花時雨(はなしぐれ)に冷やされたのか、私の心は揺らいでいた。

 震える指先で、募る想いに輪郭を与える。


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 私、航のことが好きです。

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 便箋の中央に、その一行だけを綴った。