触れられなくても、君がいい。


 彼が廊下へ出て行ってから、隣にいた子が呆れたように口を開く。

「今さらだけど、なんで小宮山って夏帆のこと『委員長』って呼ぶの?」

「小学六年で私が学級委員やったとき、一緒のクラスで」

 それだって、やりたくてやったわけじゃない。
 なかなか決まらず先生が困っていたから、見かねて仕方なく手を挙げただけなのだ。
 つい空気を読んでしまう、長女の悪い癖である。

「小宮山って女子とあんまり話さないのに、夏帆にはやたらちょっかい出してくるよね。絶対気になってるんだよ」

 他の子たちも「うんうん」と深く頷く。

「……えー?」

 好意がある人に、あんなふうに悪態をつくものなのだろうか。

 私がもし、航と同じクラスだったら――。
 きっとすごくドキドキしながらも、少しでも良く思われたくて、努めて感じ良く話しかけるけれど。

 ◇

 放課後になると、春の強い雨が降り始め、部活は中止となった。

 いつも一緒に帰るテニス部の友達を、例の彼氏が教室まで迎えにきた。
 恥ずかしさと嬉しさが混じり合った表情で、ひとつの傘に入る相談をしながら帰っていく二人を見送った。