触れられなくても、君がいい。

 ◇

 そして、中学二年生になった。

 咲き誇る桜を眺めながら、航の街はどんな春を迎えているのだろうと想いを馳せた。


「あのね……彼氏、できたっ!」

 この季節特有の、どこか落ち着きのない空気が漂う教室。
 グループの女の子の一人が、両手で口元を覆いながら恥ずかしそうに報告した。

「ええっ! 一年のときから好きだった人だよね? おめでとーっ!」

 みんなが一斉に歓声を上げる。

 最近こうして、ちらほらとカップルができ始めた。
 なんと、まだ小学四年生の妹にすら彼氏がいるのだから驚きだ。


「夏帆は? 文通の子に告白しないの?」


「……えっ」

 話を振られて跳ねた肩を、友達につつかれる。

「ホワイトデーもらってたし。いい感じじゃん!」

 二か月前の、バレンタイン。
 事前に手紙で了承を取ってから、これもまた悩みに悩んで、小ぶりな箱のチョコレートを送った。
 そのお返しに届いたのは『あんまり店もなくて選べなかったんだけど』という控えめな一言と、海の絵が描かれた箱に入った、塩ミルク味のキャンディだった。

 甘さの中にほんのりと混じる、海のしょっぱさ。
 それはまるで、私の片思いそのものを表しているようだった。