触れられなくても、君がいい。

 ◇

 航と出会ったのは、三か月前の真夏の日。

 東京から車で四時間ほどかけ、家族で海の街へ出かけた。
 照りつける日差しが、窓ガラス越しに肌をジリジリと焼いていた。

 助手席でぼんやりとする私の機嫌を取るように、後ろから母の弾んだ声が響く。

「ほらっ、夏帆! 見て!」

 言われるままに視線を向けると、木々の合間から覗く海が、みるみるうちに透き通った深い青へと変わっていくところだった。

「……わあ」

 思わず、感嘆の吐息が漏れた。

 翌日に十三歳となる私のお祝いも兼ねた旅行。
 本当はテーマパークと併設のホテルに行きたかったけれど、予算の都合なのか叶わなかった。

 海で出会い、海を愛する両親に、上手く言いくるめられた気もする。

 最初は「私の誕生日なのに」といじけた気持ちを抱えていたものの。
 予想以上のその青さが、そんなささやかな反抗心を和らげた。

 後部座席の母の両脇では、長旅に飽きた三歳の弟がぐずり始め、十歳の妹はマイペースにお菓子を頬張っている。

 我儘を飲み込むことに慣れきった長女の私は、黙ったまま、流れていく鮮やかな夏模様を眺めていた。