そんな中飛鳥くんはゆっくりと続ける。
「高杉くん知ってる?
数週間前、詩は大雨の中傘も差さずに一人で泣いてた。」
「……っ!」
心臓が跳ねる。
一気に血の気が引いた。
(そのちゃんが……大雨の中泣いてた?)
頭の中でその光景が勝手に浮かび、息が詰まる。
飛鳥くんは静かに立ち上がった。
椅子が小さく軋む音がする。
「リーダーである高杉くんが、その程度の気持ちなら。」
一歩、距離が詰まるような圧。
「俺も、もう遠慮しない。
俺は詩のこと、本気で好きだし。」
その言葉は、まっすぐで、逃げ場がなかった。
「だから、もう二度と傷ついて欲しくない。」
飛鳥の視線が、最後に強く俺を射抜く。
「何が本当に大切なのかちゃんと考えな。
ぐずぐずしてると俺も、もう待たないよ。」
一瞬の間。
「俺は本気で詩を奪いにいく。」
その言葉だけが、はっきりと残る。
テーブルに会計分の紙幣が置かれる音がした。
飛鳥くんはそれ以上何も言わず、背を向ける。
カラン――。
ドアベルが鳴る。
その音が消えたあと、店内は一気に静かになった。
俺だけが残る。
呼吸がうまくできない。
拳を握ったまま、指先が震えている。
飛鳥くんの言葉が、頭の中で何度も反響する。
――そのちゃんが、大雨の中で泣いていた。
――もう二度と傷ついて欲しくない。
俺は俯いたまま、震える拳をさらに強く握り締めた。



