そして一度だけ深く息を吸った。
次の瞬間。
優しい音色が部屋いっぱいに広がった。
「……。」
綺麗...。
ただ綺麗なだけじゃない。
どこか安心する。
疲れた心をそっと包み込んでくれるような音。
鍵盤を押す強さ。
音を繋げる間。
一つ一つの音に意味がある。
(……やっぱり、飛鳥の音はすごい。)
中学生の頃の飛鳥はいつも厳しかった。
「もっとできるだろ。」
「音楽に一切妥協するな。」
昔何度も言われた。
心が折れかけたり辛いと思ったことも何度もある
でもピアノを弾いている飛鳥の手は。
昔から魔法みたいだった。
音だけで、人の心を動かす。
今思えば、そういうところは――。
「……嫌いじゃなかったな。」
小さく呟く。
やがて最後の音が静かに消える。
飛鳥がこちらを見る。
「詩少しは元気出た?」
「……。」
私は思わず笑った。
「か…感動した!
やっぱり飛鳥のピアノの力ってすごいね。」
「なんか人の心を明るくさせる魔法みたい!」
そう言うと。
飛鳥は少し目を逸らした。
「……ん、ありがとう。」
照れくさそうに笑う姿が、なんだか新鮮だった。



