「大きな声を出すな、莉乃。声を抑えろ」
「ここにいる皆さんに、本当のことを知られたら困るの?」
「こんな大勢の前で、あることないこと言われたら、俺の信用に関わって誤解されるだろ!」
「何一つ誤解なんかじゃないわ。あなたはレガリアリンクの会社資金を勝手に持ち出し、浮気相手の女と海外へ逃亡した立派な犯罪者よ。それなのに、今でも共同創業者を名乗ってこの神聖なパーティに潜り込み、また何も知らない新しい投資家の人たちから、他人のお金を集めようとしてる!」
その時、私の背後から静かな、けれど圧倒的な威圧感を伴った足音が響き、九条が私のすぐ隣へと並び立った。
「遠藤。その手元にある、名刺を回収する」
「……玲。お前、一体どれだけ莉乃の頭にありもしない嘘を吹き込んで、俺の悪口を吹き込んだんだ!」
「わざわざ俺が吹き込む必要などない。お前がやった横領と私文書偽造の証拠は、すでにすべて警察と弁護士の手元に完全に揃っている」
「ふざけるな!俺という存在を会社から切れば、お前一人でこれからのレガリアリンクを回せると思っているのか!?今まで泥臭い営業をすべて外回りで取ってきたのは、この俺だぞ!」
「お前が過去に残した営業の実績そのものは、俺も否定はしない。だが、公金を私的に流用して逃げ出した今のお前に、我が社の名前をこれ以上名乗る権利など、一ミリも残されていない」
九条の声は、どこまでも冷徹で、静かに会場中に響き渡った。彼はそのまま、周囲で固唾を呑んで見守っていた経営者や投資家たちへ向けて、ハッキリとした通る声で告げた。
「皆様、お騒がせして申し訳ありません。この遠藤拓也という男は、我が社レガリアリンクの元共同代表です。現在、会社資金の大規模な不正流用、および代表である私名義のサインを偽造した架空の取引指示について、警察への告訴と刑事・民事の両面で法的手続きを厳粛に進めております。我が社、および本日の主催者側は、今後この遠藤拓也氏が持ちかけるいかなる投資話、上場支援のコンサルティング、新規の事業提携のいずれにも、一切関与しておりません」
九条のその一言で、会場の空気が文字通り一瞬でガラリと変わった。
つい数分前まで拓也と笑顔で名刺交換をしていたばかりの年配の男性たちが、一斉に顔を青ざめさせ、自分の手元にある拓也の名刺を汚物でも見るかのように見つめる。そして、これ以上巻き込まれたくないと言わんばかりに、拓也の周囲からサーッと波が引くように大きな距離を取っていった。
「……玲、お前、かつての親友だった俺の顔に泥を塗って売るのか!」
拓也の顔が怒りで真っ赤に染まり、九条を激しく睨みつける。
「お前が唯一の友人だったからこそ、俺は何度も裏切られても最後まで信じようとしたんだ。だが、お前はその俺の最後の信頼すら利用して、会社の社員や神崎さんまでをも騙し討ちにした」
「……お前は昔から、バックに巨大な九条グループの実家があるから、いつだって心に余裕があるんだよ!ろくな後ろ盾も人脈も持たない俺が、この業界でのし上がるために、裏でどれだけ必死になって泥水をすすってきたかも知らないくせに!」
「自分が必死でありさえすれば、他人の金や人生をいくらでも盗んでいいという理屈は、この世のどこにも通用しない」
「うるさい!俺は、一生お前の輝かしい影のままで終わる気なんて、最初からなかったんだよ!」
拓也の端整だった顔から、これまで必死に張り付けていた穏やかな経営者の仮面が、音を立てて完全に剥がれ落ちた。
彼はギリッと奥歯を噛み締めると、今度は隣に立つ私を酷く蔑むような目で見つめ、意地悪く唇を歪めて嘲笑った。
「……莉乃、お前だってあいつと全く同じだよ。結局のところ、俺よりもはるかに金も権力もある九条グループの御曹司へ、素早く乗り換えただけだろ?自分の結婚式を無様に潰されて、傷心したふりをしながら、すぐに元婚約者の親友のベッドに潜り込んだわけだ。大したビッチだな!」
あまりにも下劣な暴言に、周囲の招待客たちが「おい、何てことを……」と一斉に大きくざわめき始める。
私の頬が一気に悔しさと恥ずかしさで熱くなった。隣の九条の拳がみしりと鳴り、彼が一歩前へ出て拓也を殴り飛ばそうとした瞬間、自分の腕を横へと目一杯に大きく伸ばし、九条の強固な胸を全力で制して止めた。
「――私がそんなに計算高い女だったら、最初からあなたみたいな将来性のない浮気男と、結婚しようなんて大失敗の選択は絶対に選んでいないわよ」
私の凛としたその一言が響いた瞬間、会場に一瞬の静寂が落ちた。
直後、遠くのテーブルにいた年配の経営者が「ブッ」と思わずシャンパンを吹き出し、それを皮切りに、周囲の投資家たちの間でクスクスとした小さな笑い声が、拓也を嘲笑するように一気に広がっていった。
今度は拓也の顔が、恥辱と怒りで耳の根元まで真っ赤に染まっていく。
「……莉乃、お前、相変わらず口だけは達者な女だな……っ」
「誰かさんみたいに、誠実そうな優しい顔の仮面を張り付けて裏で卑怯な嘘をつき続けるよりも、こうして正面から本当のことを言い放つ方が、人間として何倍も簡単で気持ちがいいけれど?」
彼が先ほど周囲に配っていた名刺の束から、一枚を指先で冷酷に抜き取ると、彼の目の前でパキッと小気味よい音を立てて、真ん中から綺麗に二つに折り曲げた。
「私はもう、あなたの帰りを一秒たりとも待たない。二度と私の前で、私の婚約者だったなんて名前を名乗らないで」
二つに折れ曲がって使い物にならなくなったその名刺を、拓也の高級スーツの胸ポケットへと、指先で容赦なく乱暴に突っ込んで戻した。
「次にあなたと私がお互いに顔を合わせて話す時は、警察の取調室か、裁判所の法廷の中よ」
「神崎さん、これ以上、この男と話す必要はない」
九条が私と拓也の間へ入り、視線を遮るように一歩前へ出た。
拓也に完全に背を向け、二人でその場を歩き出した瞬間、背後から怒り狂った拓也の負け犬の遠吠えのような叫び声が、執拗に追いかけてきた。
「莉乃――!お前みたいな一般庶民の女が、玲のいる世界で、まともに生きられるわけがないだろう!すぐに飽きられて、用済みになって、また俺の時と同じように無様に捨てられるのがオチだ!!」
呪いのようなその言葉が鼓膜に刺さり、私の足が一瞬だけ、恐怖で止まりそうになる。
けれどその瞬間、九条が私の前へ半歩出た。
「遠藤。これ以上、彼女を侮辱するなら、弁護士を通して対応する」
九条の声は、まだ背後でこちらを呆然と見つめている拓也にも、そして周囲で私たちの動向を注視しているすべての招待客たちにも、ハッキリと聞こえるほどの堂々とした、確信に満ちたトーンだった。
「ここにいる皆さんに、本当のことを知られたら困るの?」
「こんな大勢の前で、あることないこと言われたら、俺の信用に関わって誤解されるだろ!」
「何一つ誤解なんかじゃないわ。あなたはレガリアリンクの会社資金を勝手に持ち出し、浮気相手の女と海外へ逃亡した立派な犯罪者よ。それなのに、今でも共同創業者を名乗ってこの神聖なパーティに潜り込み、また何も知らない新しい投資家の人たちから、他人のお金を集めようとしてる!」
その時、私の背後から静かな、けれど圧倒的な威圧感を伴った足音が響き、九条が私のすぐ隣へと並び立った。
「遠藤。その手元にある、名刺を回収する」
「……玲。お前、一体どれだけ莉乃の頭にありもしない嘘を吹き込んで、俺の悪口を吹き込んだんだ!」
「わざわざ俺が吹き込む必要などない。お前がやった横領と私文書偽造の証拠は、すでにすべて警察と弁護士の手元に完全に揃っている」
「ふざけるな!俺という存在を会社から切れば、お前一人でこれからのレガリアリンクを回せると思っているのか!?今まで泥臭い営業をすべて外回りで取ってきたのは、この俺だぞ!」
「お前が過去に残した営業の実績そのものは、俺も否定はしない。だが、公金を私的に流用して逃げ出した今のお前に、我が社の名前をこれ以上名乗る権利など、一ミリも残されていない」
九条の声は、どこまでも冷徹で、静かに会場中に響き渡った。彼はそのまま、周囲で固唾を呑んで見守っていた経営者や投資家たちへ向けて、ハッキリとした通る声で告げた。
「皆様、お騒がせして申し訳ありません。この遠藤拓也という男は、我が社レガリアリンクの元共同代表です。現在、会社資金の大規模な不正流用、および代表である私名義のサインを偽造した架空の取引指示について、警察への告訴と刑事・民事の両面で法的手続きを厳粛に進めております。我が社、および本日の主催者側は、今後この遠藤拓也氏が持ちかけるいかなる投資話、上場支援のコンサルティング、新規の事業提携のいずれにも、一切関与しておりません」
九条のその一言で、会場の空気が文字通り一瞬でガラリと変わった。
つい数分前まで拓也と笑顔で名刺交換をしていたばかりの年配の男性たちが、一斉に顔を青ざめさせ、自分の手元にある拓也の名刺を汚物でも見るかのように見つめる。そして、これ以上巻き込まれたくないと言わんばかりに、拓也の周囲からサーッと波が引くように大きな距離を取っていった。
「……玲、お前、かつての親友だった俺の顔に泥を塗って売るのか!」
拓也の顔が怒りで真っ赤に染まり、九条を激しく睨みつける。
「お前が唯一の友人だったからこそ、俺は何度も裏切られても最後まで信じようとしたんだ。だが、お前はその俺の最後の信頼すら利用して、会社の社員や神崎さんまでをも騙し討ちにした」
「……お前は昔から、バックに巨大な九条グループの実家があるから、いつだって心に余裕があるんだよ!ろくな後ろ盾も人脈も持たない俺が、この業界でのし上がるために、裏でどれだけ必死になって泥水をすすってきたかも知らないくせに!」
「自分が必死でありさえすれば、他人の金や人生をいくらでも盗んでいいという理屈は、この世のどこにも通用しない」
「うるさい!俺は、一生お前の輝かしい影のままで終わる気なんて、最初からなかったんだよ!」
拓也の端整だった顔から、これまで必死に張り付けていた穏やかな経営者の仮面が、音を立てて完全に剥がれ落ちた。
彼はギリッと奥歯を噛み締めると、今度は隣に立つ私を酷く蔑むような目で見つめ、意地悪く唇を歪めて嘲笑った。
「……莉乃、お前だってあいつと全く同じだよ。結局のところ、俺よりもはるかに金も権力もある九条グループの御曹司へ、素早く乗り換えただけだろ?自分の結婚式を無様に潰されて、傷心したふりをしながら、すぐに元婚約者の親友のベッドに潜り込んだわけだ。大したビッチだな!」
あまりにも下劣な暴言に、周囲の招待客たちが「おい、何てことを……」と一斉に大きくざわめき始める。
私の頬が一気に悔しさと恥ずかしさで熱くなった。隣の九条の拳がみしりと鳴り、彼が一歩前へ出て拓也を殴り飛ばそうとした瞬間、自分の腕を横へと目一杯に大きく伸ばし、九条の強固な胸を全力で制して止めた。
「――私がそんなに計算高い女だったら、最初からあなたみたいな将来性のない浮気男と、結婚しようなんて大失敗の選択は絶対に選んでいないわよ」
私の凛としたその一言が響いた瞬間、会場に一瞬の静寂が落ちた。
直後、遠くのテーブルにいた年配の経営者が「ブッ」と思わずシャンパンを吹き出し、それを皮切りに、周囲の投資家たちの間でクスクスとした小さな笑い声が、拓也を嘲笑するように一気に広がっていった。
今度は拓也の顔が、恥辱と怒りで耳の根元まで真っ赤に染まっていく。
「……莉乃、お前、相変わらず口だけは達者な女だな……っ」
「誰かさんみたいに、誠実そうな優しい顔の仮面を張り付けて裏で卑怯な嘘をつき続けるよりも、こうして正面から本当のことを言い放つ方が、人間として何倍も簡単で気持ちがいいけれど?」
彼が先ほど周囲に配っていた名刺の束から、一枚を指先で冷酷に抜き取ると、彼の目の前でパキッと小気味よい音を立てて、真ん中から綺麗に二つに折り曲げた。
「私はもう、あなたの帰りを一秒たりとも待たない。二度と私の前で、私の婚約者だったなんて名前を名乗らないで」
二つに折れ曲がって使い物にならなくなったその名刺を、拓也の高級スーツの胸ポケットへと、指先で容赦なく乱暴に突っ込んで戻した。
「次にあなたと私がお互いに顔を合わせて話す時は、警察の取調室か、裁判所の法廷の中よ」
「神崎さん、これ以上、この男と話す必要はない」
九条が私と拓也の間へ入り、視線を遮るように一歩前へ出た。
拓也に完全に背を向け、二人でその場を歩き出した瞬間、背後から怒り狂った拓也の負け犬の遠吠えのような叫び声が、執拗に追いかけてきた。
「莉乃――!お前みたいな一般庶民の女が、玲のいる世界で、まともに生きられるわけがないだろう!すぐに飽きられて、用済みになって、また俺の時と同じように無様に捨てられるのがオチだ!!」
呪いのようなその言葉が鼓膜に刺さり、私の足が一瞬だけ、恐怖で止まりそうになる。
けれどその瞬間、九条が私の前へ半歩出た。
「遠藤。これ以上、彼女を侮辱するなら、弁護士を通して対応する」
九条の声は、まだ背後でこちらを呆然と見つめている拓也にも、そして周囲で私たちの動向を注視しているすべての招待客たちにも、ハッキリと聞こえるほどの堂々とした、確信に満ちたトーンだった。



