因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

 エリーゼに身を任せたままのカインは、呼吸を整えながら弱々しく微笑んだ。

「ふふ、エリーゼ様の寝顔が可愛くてさ。つい僕も一緒に昼寝しちゃったよ」
「よく言うわね、しっかり寝間着を着てるくせに」

 エリーゼのツッコミは叱るような厳しさではなく優しさを含んでいる。カインは真っ白なシルクの寝間着を着ているが、銀髪・銀眼の美しい容姿と似合いすぎて笑えない。
 そして問い詰めなくても分かる。カインは純粋な添い寝だけで、それ以上は何もしていないと。
 エリーゼはカインから腕を解くと、ベッドの上に座ったままで正面から向かい合う。

「ねぇ、なんで私はここにいるの? あれからどうなったの?」
「アゼル様がセレンを連れて行ったからさ、僕はエリーゼ様を連れ帰ったよ」
「……は? 何それ?」

 なぜ人質の交換みたいになっているのか、エリーゼは訳が分からない。エリーゼを溺愛しているアゼルが、聖女の能力や下心が目的でセレンを連れ去る事は考えられない。
 エリーゼは気を失う前の状況を思い出してみる。あの時は聖女の能力が暴走した光で視界が悪かった。

(まさかアゼル、私とセレンを間違えて連れ帰ったとか?)

 いや、いくらなんでも、それは……と脳内で否定するよりも納得が先に出てしまった。

(……バカなアゼルなら、ありえるわね)

 それでも怒りや不安や焦りを感じないのは、アゼルがセレンに手を出す事は絶対にないと分かっているから。こんな時だけは、二人が共有する『溺愛の呪い』の安心感に感謝してしまう。
 バカで助かったり、困ったり……アゼルはどこまでもエリーゼを翻弄するが、そんなバカなところさえも今は愛しいと思う。
 すっかり目が覚めて調子が戻ったカインは、唐突にエリーゼの両手を握る。

「エリーゼ様は本物の最強の聖女だったんだね! 今、治癒の能力使ったでしょ!? 僕、すごく元気が出たよ!」
「…………」

(え……カイン様もバカだったの……?)

 もはやエリーゼは遠い目をしている。能力なんて使っていない。エリーゼに抱きしめられて心身が癒されただけなのに、能力で治癒されたと勘違いしてしまった。
 エリーゼが突っ込む間もなく、テンションが上がったカインは次々と言葉を畳み掛ける。

「偽物だって疑ってごめんね。やっぱり僕はエリーゼ様と結婚するよ!」
「え……ちょっと待って! セレンはどうするの、婚約者でしょ。きっと人質にされてるわよ」
「セレンよりもエリーゼ様の能力の方が強かった。取り返す必要もないし都合がいい。このままでいいや」
「よくないわ!!」

 今度は豪快にツッコミを入れるエリーゼだが、このままではまずい。カインはデヴィール国に囚われたセレンをエリーゼと交換する気がない。
 カインには前世の記憶がないとはいえ、前世で愛したエリーゼを選ぶのは当然であった。しかも最強の聖女だと認められてしまったので簡単には手放さないだろう。

「ふふ、エリーゼ様。愛してるよ。幸せになろうね」

 カインは満面の笑顔でエリーゼの腰を引き寄せて抱きしめてくる。
 一方的に愛を注いでくるカインは以前の冷酷なイメージから一変した。カインは恋愛に関して思った以上にピュアだった。純粋な気持ちで添い寝をするほどに。
 不覚にもエリーゼの母性や乙女心をこれでもかと刺激してくる。アゼルに対する溺愛の呪いが浄化されてしまいそうな勢いだった。

(あぁ……どうしたらいいの、アゼル……)

 カインに前世の記憶が蘇った訳ではなく、カインがエリーゼと接する事によって潜在意識と愛が蘇ってきている。このままカインの側に居たら危険だ。
 冷酷な王子であった方が敵対しても憎めたのに、やりにくい。思わぬカインの変化にエリーゼは戸惑う。