因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

 レミアルは気を失っていて、石の床に伏せて倒れている。甲冑は全て脱がされていて、身に着けているのは白い下着のみ。20歳の女性としては悲惨な姿だ。
 普通ならば目のやり場に困るが、エリーゼにしか興味がないアゼルと、戦にしか興味がないアーサーは平然としている。
 呆然とレミアルを見つめているセレンの横でアゼルが問いかける。

「さて、セレンよ。この女に関する情報を教えてもらおうか」
「……レミアルよ。ウィリアム国の将軍」

 セレンは視線を真っ直ぐに牢屋の中に向けたままで答える。今はアゼルと目を合わせたくない。その声にも静かな怒気が含まれる。
 アゼルは将軍と聞いて僅かに驚いた。戦場でのレミアルは兜で顔全体を覆っていたので女性だとは気付かなかった。
 19歳のセレンは20歳のレミアルと歳が近い事もあり、将軍よりもメイド長としてのレミアルと親密だった。だからこそ、セレンは今のレミアルの扱いが許せない。

「ちょっと、あんた! アーサーだっけ? 女性になんてひどい扱いしてるのよ!」

 セレンは人質という立場を忘れて、素の口調でアーサーを責める。さすがはエリーゼの妹、有無を言わせない気迫と貴族のプライドを併せ持つ。
 人質からタメ口の命令口調で呼び捨てされてもアーサーは感情を崩さない。というか特に気にしない。

「傷付けてはいない。眠っているだけだ」
「そうじゃないわよ、服を着せてベッドに寝かせろって言ってるの! これじゃ虐待でしょバカ!!」

 バカという言葉に反応してアーサーの眉がピクリと動いた。セレンを挟んで反対側の横に立つアゼルは思わず吹き出した。セレンの口調がエリーゼにそっくりだからだ。
 人質に虐待も何もないが、エリーゼを虐待してきたセレンが言う言葉としては筋が通らない。しかしエリーゼもきっと同じ事を言うだろう。

「いいだろう。アーサー、セレンの言う通りにしてやれ」
「……承知しました」

 アゼルの命令に従って、アーサーは見張りの兵から牢屋の鍵を受け取る。扉を解錠して中に入ると、床に倒れているレミアルに近寄る。
 アーサーは無表情のまま黒い軍服の上着を脱ぐと、裸に近いレミアルの身体に被せた。
 そしてレミアルの背中に手を回して上半身を起こさせると、そのまま抱き上げようとする。その時、レミアルの瞼が開いてアーサーのグレーの瞳と目が合う。

(アーサー殿が、こんな近くに……これは、また夢か?)

 まだ夢見心地のレミアルは、目の前にいるアーサーが前世の夢なのか現実なのか区別できていない。