因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

 さらに理由はもう1つ。至近距離でアゼルの赤い瞳を見つめていたセレンは、いつの間にか悪魔の瞳の魔力に魅入られてしまった。

(こうして見るとアゼル様ってイケメンなのね……)

 そんなセレンの熱い視線を遮るようなタイミングで再び部屋のドアが開く。黒い軍服を着た軍隊長のアーサーが入室してきてアゼルの背後に立つ。

「アゼル様。その者は人質としての利用価値があります。エリーゼ様との交換に使えばよいかと」

 根っからの軍人であるアーサーは、アゼル以上に感情のないグレーの瞳に冷酷さを宿している。
 セレンがデヴィール国にいるという事は、必然的にエリーゼはウィリアム国に連れて行かれた事になる。両国の聖女が入れ替わった形だ。
 最強の聖女が欲しいカインも、セレンとエリーゼの交換を求めてくると予想した。アーサーの考えは、それだけではない。

「それに人質はもう一人います。そこの聖女を返してもこちらが有利に変わりはありません」
「む、そうなのか。さすがアーサーだな。それで、もう一人の人質はどこにいる?」
「地下牢に入れてあります」
「よし。見に行こう」

 その会話を聞いていたセレンは、人質となったもう一人の者が誰なのかが気になった。咄嗟にアゼルとアーサーの軍事的な会話に堂々と割って入る。

「私も行かせて! その人質の詳細な情報を知りたいでしょう? 私の身の安全を約束するなら何でも情報を提供するわ」

 これはセレンの交渉でもあったが、アゼルもアーサーも特に異論はない。この城にいる限りセレンは逃げられないのだから、むしろ都合が良い。

「ふん、いいだろう。だが虚偽発言をしたら命はないと思え」

 アゼルにとっては軽い脅しだが、凄みを含んだ重い声で言うと冗談に聞こえない。セレンは背筋が凍る思いで頷いた。

 地下牢は城を出て城壁を辿るように歩くいた場所にある。ウィリアム国と同じで、城の裏側の薄暗い場所に地下に続く階段がある。
 セレンは特に拘束される事もなく、アゼルとアーサーの後ろに付いて歩いていく。
 階段を下ると、いくつもの牢屋が並ぶ通路を進む。一番奥の牢にその人質は入れられていた。まず、アゼルが鉄格子の隙間から中の様子を確認する。

「……女か。牢に入れる必要はあったか?」

 アゼルの言葉に反応したセレンがハッと目を見開く。あの戦場での軍隊の中で女性といえば一人しか思い浮かばない。
 続いてアーサーがアゼルの横に立って牢の中を見ながら答える。

「はい。彼女は軍人なので、念のためです」

 そのアーサーの返答を聞いたセレンは確信した。そして勝手に牢に近付いて中を覗く。そこには思った通りの人物が冷たい石の床に横たわっている。
 セレンは呼びかける訳でもなく、独り言のようにその人物の名を呟いた。

「レミアル……!」

 人質として捕らえられた女性とは、ウィリアム国の将軍・レミアルであった。