「俺、こんなことするのお前だけだから」って言う生意気な後輩くんに、不覚にもときめいてしまいました。

あの雨の日のキス以来、俺の平穏は完全に崩壊した。

図書室で武琉と目が合うたびに、あの時の熱い唇の感触や、「お前だけだから」という低い声が脳裏に蘇って、まともに顔が見られない。
赤くなる顔を隠すように参考書に目を落とす俺を、武琉はいつも通り……いや、いつも以上に熱い視線で見つめてくる。

「結弦先輩、今日の放課後も二人きりになれますか?」

「な、なれるわけないだろ。俺は受験生だし、今日は早く帰る」

「えー、冷たいなあ」

そう言って笑う武琉だが、他の委員がいなくなった一瞬の隙を見計らい、机の下で俺の膝をじっと小突いてくる。
指先が触れるだけで、身体中がカッと熱くなった。

ずるい。
本当にずるい。

あんな風に強引に境界線を越えておいて、普段はまた可愛い後輩の顔をして懐に入ってくるなんて。

家へ帰る道すがら、スマホの画面を見つめる。
かつてあれほど執着していた翠先輩の連絡先。
もう何年も動いていないトーク画面を見ても、以前のような胸を締め付けるような痛みは驚くほどに薄れていた。
代わりに頭を占領しているのは、大型犬のくせに、時折たまらなく雄の顔をする生意気な高1の姿だ。

年上としてのプライドも、大人の余裕も、千歳武琉という嵐の前に粉々に砕かれていく。
俺はもう、認めざるを得なかった。
過去の幻影なんかよりずっと眩しい光に、自分が完全に射抜かれているということを。