「俺、こんなことするのお前だけだから」って言う生意気な後輩くんに、不覚にもときめいてしまいました。

雨の降る放課後だった。
他の委員は全員帰り、図書室には俺と武琉の二人だけ。

窓を叩く雨音を聞きながら、俺は古い文庫本のページに挟まれていた、一枚の栞を見つめていた。
中学の卒業式の日、翠先輩から「これ、あげる」とぶっきらぼうに渡された、色褪せた青い栞。
もう二度と会えない。
あの冷ややかな瞳に二度と映ることはない。
分かっているのに、どうしても捨てられない過去の残骸。

ぽつり、と図書室の床に影が落ちた。
ハッと顔を上げると、いつの間にか目の前に武琉が立っていた。
その目は、今まで見たこともないほど暗く、嫉妬に燃えていた。

「……それ、誰に貰ったんですか」

「千歳には関係ないだろ。片付けに戻れ」

逃げるように立ち上がろうとした俺の腕を、武琉が強い力で掴んだ。
そのまま背後の本棚へと押し込まれる。
背中にズラリと並んだ本の感触と、目の前を塞ぐ武琉の大きな身体。
彼は俺の逃げ道を塞ぐように、両手を本棚にドン、とついた。
いわゆる、壁ドンというやつだ。

「離せ、千歳!」

「嫌です。……先輩、まだその人のこと考えてるんですか? 俺じゃ、不満ですか?」

降ってくる声が、熱い。
いつも「先輩!」と呼んでくる可愛い後輩の姿はどこにもない。
そこにいるのは、圧倒的な熱量を持った一人の「男」だった。

顎をクイと持ち上げられ、強制的に視線を合わされる。
武琉の顔が、信じられない近さまで迫ってきた。心臓が壊れたように脈打つ。

「俺、こんなことするのお前だけだから」

耳元で、低く、掠れた声が囁く。

「……だから、ちゃんと俺を見て」

降ってきたキスは、図書室の雨音をすべて掻き消すほどに激しくて、甘かった。
過去の切ない恋なんて一瞬で吹き飛ぶほど、俺の身体は、生意気な後輩の熱に支配されていく。

これって、絶対に――好きになられてる……どころか、俺、完全に捕まってる。