「俺、こんなことするのお前だけだから」って言う生意気な後輩くんに、不覚にもときめいてしまいました。

それからの毎日、俺の心臓はちっとも平穏を保てていなかった。

図書室のカウンターで二人、貸出業務の手続きをしている時。

「先輩、この本のバーコード、上手く読み込めないです」

そう言って武琉が差し出してきた手に、俺の手が重なる。
引き剥がそうとしたのに、武琉はなぜか指を絡めるようにして、俺の手をぎゅっと握り込んできた。

「千歳……?」

「あ、すみません。先輩の手、冷たくて気持ちよかったので、つい」

悪びれもせず、でも耳を少し赤くして笑う。
別の日には、俺の制服の襟元にゴミがついていると言って、顔が触れそうなほど至近距離まで近づいてきた。
武琉の長い睫毛が揺れるのが見えて、俺は思わず息を止める。

「……お前、誰にでもそういう距離感なのか?」

たまらず、牽制のつもりで尋ねた。
どうせ、誰からも愛される天然タラシなのだろう。
そう思わなければ、この異常な動悸の説明がつかない。

すると武琉は、手に持っていた本をカウンターにコト、と置き、真剣な目で俺を見つめた。

「他の先輩にはこんなこと言いません」

「え……」

「俺、結弦先輩にしか興味ないんで」

直球すぎる言葉に、頭が真っ白になる。
これって、もしかして。
いや、まさか。ただの憧れとか、そういうやつだよな……?
そう自分に言い聞かせる大人の余裕は、もう限界を迎えつつあった。