最年長側室の覚醒 〜身分の低い私の息子が世継ぎですか? 必ず命を狙われるので、死に物狂いで守ってみせます〜

「――我が軍勢に動揺するな! 構わん、すべてを斬り捨てろ!」

隣国の将軍たちが色めき立ち、指揮系統が完全に乱れたその一瞬の隙を、この国の真の覇王が見逃すはずはなかった。

「クインテラの騎士たちよ、逆賊どもを粛清せよ!!」

轟くような大音声と共に、王宮の闇を切り裂いて突入してきたのは、国王レオンハルトが直率する本隊、そしてブリジェット率いるバルトロメウス騎士団の精鋭たちだった。

「おらおら、腰抜けども! 首を洗って待ってたかい!?」

ブリジェットの大剣が豪快に唸りを上げ、動揺した隣国の工作員たちを次々と薙ぎ倒していく。
レオンハルトの圧倒的な武力と統率力の前に、内通者や隣国軍の残党は瞬く間に制圧され、星見の塔の下は一気にクインテラ軍の歓声に包まれた。

「しまっ……、ああ、あああ……っ!!」

眼下で自らの軍勢が瓦解していく光景を見たリリィは、完全に正気を失った。
完璧だったはずの復讐劇、数年間耐え忍んできた怨念のすべてが、エレナの知略とレオンハルトの反撃によって、今まさに完全に潰えたのだ。

「もうおしまいよ、リリィ。その子を離しなさい」

エレナが静かに告げる。

「嫌……、嫌よ! 終わらせない、タダでは起きないわ……! だったら、お前の一番大切なものを道連れにして、お前たちの未来を永遠に呪ってやる!!」

リリィは狂った笑みを浮かべると、アルフレッドの小さな身体を強引に抱え上げ、バルコニーの城壁を越えて、燃え盛る奈落の底へと自ら飛び降りようとした。

「母上――!!」

「アルフレッド!!!」

引き裂かれるような悲鳴。
考えるよりも早く、エレナの身体が動いていた。

エレナは自らの怪我や命の危険など一切顧みず、黒いドレスの裾を翻して、奈落へと落ちゆく我が子に向かって身体を投げ出したのだ。

ガシッ……!!

「あが……っ!」

激しい衝撃がエレナの身体を襲う。
エレナは身を乗り出し、間一髪のところで、リリィの手から離れたアルフレッドの小さな腕をその両手でがっしりと掴み取った。

「エレナ!!」

直後に駆け込んできたレオンハルトの逞しい腕が、アルフレッドを掴んだまま今にも落ちそうになっていたエレナの細い腰を、背後から強く、必死に抱きとめる。

「レオンハルト様……! アルが、アルが……っ!」

「分かっている、もう大丈夫だ、エレナ!」

レオンハルトの超人的な筋力によって、エレナとアルフレッドは一気に安全なバルコニーの床へと引き揚げられた。
エレナは涙を流しながら、恐怖に震える我が子をこれ以上ないほど強く抱きしめた。

一方、道連れに失敗し、城壁の淵に叩きつけられたリリィは、駆けつけたブリジェットと騎士たちによって、完全に床へとねじ伏せられた。

「離せ……! 離しなさいクインテラの泥ども!! 呪ってやる、永遠に……!!」

床に血を吐きながらも、リリィは狂気的なサファイアの瞳でエレナを睨みつけ、果てなき怨嗟の声を上げ続けるのだった。