最年長側室の覚醒 〜身分の低い私の息子が世継ぎですか? 必ず命を狙われるので、死に物狂いで守ってみせます〜

黒煙が渦巻き、赤紅の炎が王宮の美しい回廊をなめ回す。
内通者によって城門が開かれ、隣国の精鋭部隊が雪崩れ込んできた後宮は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
貴族たちが腰を抜かして逃げ惑う中、激しい炎に照らされる翡翠宮の前庭に、4人の影が毅然と立ち並んだ。

第一側室エレナ、第二側室カタリナ、第三側室ブリジェット、第四側室フィオナ――。

かつては泥沼の愛憎劇を繰り広げ、互いの命を狙い合った「妻たち」が一堂に会したのだ。
しかし、今の彼女たちの瞳に、かつての敵意は微塵もなかった。

「――東方の蛇どもが、ずいぶんと派手に暴れてくれるじゃないかい」

包帯をはぎ取り、身の丈ほどもある大剣を肩に担いだブリジェットが、不敵な笑みを浮かべて前に出る。

「怪我人の私をここまで歩かせたんだ。代償は高くつくよ!」

「お黙りなさい、ブリジェット。無茶をして傷が開いても知りませんわよ」

フィオナがいつものように優雅に扇を広げるが、その背後には、異様な威圧感を放つ重装甲の戦士たちが控えていた。

「我がローゼンタール家が誇る最高峰の傭兵団『鉄血の山猫』、総勢300名。私の個人資産で買い取って、すべて王宮内に配置させましたわ。国庫の金など一銭も使っていません。文句はありませんわね?」

「ふふ、頼もしいこと。なら、私は頭脳で躍らせてもらうわ」

カタリナが冷徹な笑みを浮かべ、手にした通信魔導具を起動する。

「敵の進軍ルート、配置、内通者の名前はすべて私の諜報網が掴んでいるわ。偽の避難誘導を発信して、敵の主力部隊をブリジェットの防衛線へと『誘導(デコイ)』してあげる。袋のネズミにしてお終いなさい」

財力で私兵を率いるフィオナ。
剣を振るい、圧倒的な武力で敵を叩き潰すブリジェット。
情報網を駆使し、冷酷な知略で敵を翻弄するカタリナ。

それぞれが持つ最強の武器が、一つの巨大な「迎撃網」として完璧に噛み合っていく。
その中心で、エレナは深く息を吸い込み、3人の戦友たちを見渡した。

「みんな、ありがとう。リリィの背負った悲しみは深く、この国の法律は歪んでいるかもしれない。だけど――」

エレナはドレスの裾を翻し、前方の暗闇から迫りくる敵の影を見据えて、凛とした声を響かせた。

「私たちの家を、よそ者に好き勝手に荒らさせない! 私たちの愛する人・レオンハルト様と、子供たちの未来は、私たちがこの手で守り抜くわ!」

「「「おおおおお!!」」」

4人の妻たちの絆が、戦火の中で爆発する。
かつては呪わしい檻でしかなかった後宮。
しかし今、そこは彼女たちが命懸けで守るべき「我が家」となっていた。
エレナ陣営の圧倒的な反撃の火蓋が、今、切って落とされた。