最年長側室の覚醒 〜身分の低い私の息子が世継ぎですか? 必ず命を狙われるので、死に物狂いで守ってみせます〜

「――そういうことだったのね、レオンハルト様」

禁断の書庫の最奥で見つけた、初代国王の真実の記録。
それはオカルト的な呪いなどではなく、かつて王家が深刻な人口減少に陥った際、一族の全滅を防ぐために多様な血を強制的に混ぜ合わせるという、冷徹な【優生学的なシステム】だった。
しかし、時代が経つにつれてその本質は失われ、貴族たちの利権や、女たちを後宮という檻に縛り付けるための歪んだ道具へと変質してしまっていたのだ。

レオンハルトもまた、エレナだけを愛しながらも、この悪法のために愛なき婚姻を強いられ、孤独に戦い続けていた被害者の一人だった。
王の隠された苦悩と深い愛を知り、エレナは後宮の闇をすべて終わらせる生真面目な決意を固める。

だが、この歪んだ法律がもたらした最大の悲劇は、今まさにリリィという怪物となって牙を剥こうとしていた。



翌朝、翡翠宮の密室にて、カタリナが極秘裏に調べ上げた東方隣国の凄惨な歴史が、エレナたちの前に明かされる。

「エレナ、これがリリィ……いいえ、滅ぼされた隣国の王女『リリアーナ』の過去よ」

カタリナが差し出した古い名簿と地図には、クインテラ王国による凄惨な侵略の爪痕が記録されていた。

「我が国のあの『妻を5人以上持つ』という侵略的な婚姻政策……。過去の国王たちは、隣国の優秀な血筋を強奪するため、リリィの祖国から何人もの美しい王女や公女を、力ずくで後宮へと連れ去ったわ。リリィの母親も、姉たちも、全員がその生贄としてこの後宮に囚われ、心を病んで若くして亡くなっている」

「そんな……」

エレナは息を呑んだ。

「それだけではないわ」

カタリナの翡翠色の瞳が、かつてない悲しみに揺れる。

「隣国は、王女たちを奪われて王統が途絶えたところを、我が国に外交的・軍事的に徹底的に踏みつぶされ、国そのものを崩壊させられたの。リリィはその燃え盛る城から唯一逃げ延びた、亡国の最後の生き残り。彼女にとってこの後宮は、自分の家族を奪い、祖国を壊した『呪わしい処刑場』そのものなのよ」

リリィがなぜ、自らの身体を毒で蝕んでまで偽りの妊娠を演じ、国を滅ぼそうとしているのか。
その狂気の裏にあったのは、後宮という狂った法律のシステムによって、すべてを奪われた一人の少女の、血を吐くような【怨みと哀しみ】だったのだ。

「彼女もまた……この歪んだ法律の、哀れな犠牲者だったのね……」

リリィの凄絶な過去を知ったエレナは、胸を締め付けられるような痛みを覚えながらも、静かに、しかし絶対に揺るがない瞳で、迫りくる決戦の空を見つめるのだった。