「――なぜ『妻を5人以上持ち、子は1人必ず生む』などという狂った法律が、この国に存在するのか。その本当の理由を知らなければ、リリィの執念の根底にある『呪い』を完全に断ち切ることはできないわ」
血のクーデター予告から一夜明けた深夜。
正妻代行としての権限、そして国王レオンハルトの絶対的な黙認を得たエレナは、第二側室カタリナと共に、王宮の最深部――歴代の王すら立ち入りを制限される【禁断の書庫】の前に立っていた。
重厚な鉄の扉には、幾重もの魔術的な封印が施されている。
しかし、カタリナが地下牢から持ち帰った仕掛け指輪の残光と、エレナが正妻の執務室から密かに持ち出した初代王の「血の刻印」を重ね合わせると、ゴゴゴ……と地鳴りのような音を立てて、封印の鎖が解き放たれた。
「いきましょう、エレナ。ここに、この国の歪んだ始まりが眠っているわ」
暗闇に包まれた書庫の内部は、千年分の埃と死臭に似た魔力の残香が満ちていた。
カタリナが持つ魔導灯の青い光が、壁一面に並ぶ、革が腐りかけた古い古文書の山を照らし出す。
二人は時間を忘れ、貪るように記録を漁った。
そして、最奥の石壇に安置された、漆黒の布に包まれた一冊の書物に辿り着いた。表紙には、クインテラ王国の国章である「血塗られた剣」と、リリィの祖国である東方隣国の「大蛇」の紋章が、互いを喰らい合うように刻まれていた。
「これは……初代国王の『親征日記』……いえ、【血の契約書】だわ」
エレナが震える手でページをめくると、そこには衝撃的な「王国の真実」が、初代王の狂気的な筆跡で記されていた。
『我がクインテラは、東方の蛇の国を滅ぼし、その土地と「大地の魔力」を強奪した。しかし、滅びゆく隣国の女王は、我が一族に消えぬ呪いをかけた。
──“クインテラの王宮に流れる魔力は、常に5人以上の高貴なる女の「生命力」を贄(苗床)として捧げ続けねば枯渇し、国は滅びる。そして、その贄から生まれた「最初の1人の子供」の命を、大地の毒が必ず喰らうであろう”……と』
「そんな……っ!」
エレナは思わず口元を押さえ、激しい戦慄に襲われた。
クインテラ王国が誇る豊かな実りと繁栄、そして「王室の絶対的な魔力」は、すべて過去に滅ぼした隣国から奪い取ったものだったのだ。
そして、あの狂った法律は、国の崩壊(魔力の枯渇)を防ぐため、常に5人の側室を囲ってその生命力を国に吸い取らせ続け、大地の呪いの身代わりとして「子が1人だけ生まれる」ように調整するための、文字通りの【生贄のシステム】だった。
「だから……レオンハルト様は、私以外の側室たちを、誰一人として本当には愛さなかったのね……」
エレナの目から涙がこぼれ落ちる。
王は、側室たちを愛さなかったのではない。
彼女たちが「生贄の檻」に囚われていることを知っていたからこそ、国を守るために冷徹な王を演じ、同時に愛するエレナと我が子アルフレッドにその「大地の毒(呪い)」が向かわぬよう、必死に盾となって戦っていたのだ。
「そして、リリィはその『呪いの真実』を知っているのよ」
カタリナが翡翠色の瞳を鋭く光らせる。
「彼女の狙いは、自分が『5人目の適格な側室』として擬態し、偽りの子を仕立て上げることで、初代王が結んだ契約の魔力を内側から逆流させ、クインテラ王国そのものを大地ごと崩壊させること……!」
リリィの復讐は、単なる兵力によるクーデターではない。
この禁断の書庫に眠る「血の契約」を起動させ、国そのものを根底から呪い殺す儀式だったのだ。
「すべてが繋がったわ……」
エレナは涙を拭い、黒いドレスの胸元を強く掴んだ。
悲しい歴史、狂った法律、そしてリリィの絶望的なまでの怨嗟。
「リリィ……貴女の怒りも、絶望も、すべて理解したわ。でもね、私は平民の母親。そんな千年前の呪いのために、私のアルフレッドの命も、レオンハルト様が命懸けで守ろうとしたこの国も、絶対に渡さない!」
禁断の歴史という名の「最後のピース」を手に入れたエレナ。
知略と呪いが交錯する中、物語はいよいよ、二日後に迫る【大御前審判】――クインテラ王国最終決戦の幕開けへと突き進んでいく。
血のクーデター予告から一夜明けた深夜。
正妻代行としての権限、そして国王レオンハルトの絶対的な黙認を得たエレナは、第二側室カタリナと共に、王宮の最深部――歴代の王すら立ち入りを制限される【禁断の書庫】の前に立っていた。
重厚な鉄の扉には、幾重もの魔術的な封印が施されている。
しかし、カタリナが地下牢から持ち帰った仕掛け指輪の残光と、エレナが正妻の執務室から密かに持ち出した初代王の「血の刻印」を重ね合わせると、ゴゴゴ……と地鳴りのような音を立てて、封印の鎖が解き放たれた。
「いきましょう、エレナ。ここに、この国の歪んだ始まりが眠っているわ」
暗闇に包まれた書庫の内部は、千年分の埃と死臭に似た魔力の残香が満ちていた。
カタリナが持つ魔導灯の青い光が、壁一面に並ぶ、革が腐りかけた古い古文書の山を照らし出す。
二人は時間を忘れ、貪るように記録を漁った。
そして、最奥の石壇に安置された、漆黒の布に包まれた一冊の書物に辿り着いた。表紙には、クインテラ王国の国章である「血塗られた剣」と、リリィの祖国である東方隣国の「大蛇」の紋章が、互いを喰らい合うように刻まれていた。
「これは……初代国王の『親征日記』……いえ、【血の契約書】だわ」
エレナが震える手でページをめくると、そこには衝撃的な「王国の真実」が、初代王の狂気的な筆跡で記されていた。
『我がクインテラは、東方の蛇の国を滅ぼし、その土地と「大地の魔力」を強奪した。しかし、滅びゆく隣国の女王は、我が一族に消えぬ呪いをかけた。
──“クインテラの王宮に流れる魔力は、常に5人以上の高貴なる女の「生命力」を贄(苗床)として捧げ続けねば枯渇し、国は滅びる。そして、その贄から生まれた「最初の1人の子供」の命を、大地の毒が必ず喰らうであろう”……と』
「そんな……っ!」
エレナは思わず口元を押さえ、激しい戦慄に襲われた。
クインテラ王国が誇る豊かな実りと繁栄、そして「王室の絶対的な魔力」は、すべて過去に滅ぼした隣国から奪い取ったものだったのだ。
そして、あの狂った法律は、国の崩壊(魔力の枯渇)を防ぐため、常に5人の側室を囲ってその生命力を国に吸い取らせ続け、大地の呪いの身代わりとして「子が1人だけ生まれる」ように調整するための、文字通りの【生贄のシステム】だった。
「だから……レオンハルト様は、私以外の側室たちを、誰一人として本当には愛さなかったのね……」
エレナの目から涙がこぼれ落ちる。
王は、側室たちを愛さなかったのではない。
彼女たちが「生贄の檻」に囚われていることを知っていたからこそ、国を守るために冷徹な王を演じ、同時に愛するエレナと我が子アルフレッドにその「大地の毒(呪い)」が向かわぬよう、必死に盾となって戦っていたのだ。
「そして、リリィはその『呪いの真実』を知っているのよ」
カタリナが翡翠色の瞳を鋭く光らせる。
「彼女の狙いは、自分が『5人目の適格な側室』として擬態し、偽りの子を仕立て上げることで、初代王が結んだ契約の魔力を内側から逆流させ、クインテラ王国そのものを大地ごと崩壊させること……!」
リリィの復讐は、単なる兵力によるクーデターではない。
この禁断の書庫に眠る「血の契約」を起動させ、国そのものを根底から呪い殺す儀式だったのだ。
「すべてが繋がったわ……」
エレナは涙を拭い、黒いドレスの胸元を強く掴んだ。
悲しい歴史、狂った法律、そしてリリィの絶望的なまでの怨嗟。
「リリィ……貴女の怒りも、絶望も、すべて理解したわ。でもね、私は平民の母親。そんな千年前の呪いのために、私のアルフレッドの命も、レオンハルト様が命懸けで守ろうとしたこの国も、絶対に渡さない!」
禁断の歴史という名の「最後のピース」を手に入れたエレナ。
知略と呪いが交錯する中、物語はいよいよ、二日後に迫る【大御前審判】――クインテラ王国最終決戦の幕開けへと突き進んでいく。



