最年長側室の覚醒 〜身分の低い私の息子が世継ぎですか? 必ず命を狙われるので、死に物狂いで守ってみせます〜

クインテラ王国の後宮――そこは、美貌と血統、そして「義務」が渦巻く華やかな檻だ。

この国には、建国以来守られ続けている絶対的な『五妻一子の法(ごさいいっしのおきて)』がある。
王たる者は必ず五人以上の妻を娶ること。
そして、それぞれの妻との間に、必ず一人ずつ子どもを成さねばならない。
それが王族としての義務であり、血の多様性を守るための冷徹なシステムだった。

その、広大で絢爛豪華な後宮の片隅にある、比較的つつましい『翡翠宮』の庭園で、エレナは優しい眼差しを我が子に注いでいた。

「お母様、見て! トカゲさんがいたよ!」

泥だらけの手で小さなトカゲを掲げ、満面の笑みを浮かべるのは、エレナの愛息・アルフレッドだ。
今年で五歳になる彼は、国王レオンハルトの第一子であり、同時にこの後宮で最も身分の低い『第一側室』であるエレナの子だった。

「まあ、アル。お洋服が泥だらけですよ。でも、元気なのは良いことです。後でお着替えしましょうね」

エレナは絹のハンカチでアルフレッドの額の汗を拭った。
エレナは元々、王都の商家の娘だった。美貌を見初められたわけではない。
ただ、「五人以上の妻を持たねばならない」という法律の頭数合わせとして、身分が低く扱いやすいという理由で、一番最初に後宮に放り込まれた『最年長』の側室だった。

その後、名門貴族から正妻オーレリア、第二側室ヴェロニカ……と次々に高貴な女性たちが輿入れしてきたため、平民上がりのエレナは常に後宮の底辺で日陰の身として暮らしてきた。
しかし、エレナはそれで満足だった。
国王レオンハルトからの寵愛など、最初から期待していない。
ただ、法律の義務として一度だけ夜を共にし、奇跡的に授かったこのアルフレッドさえ無事に育ってくれれば、それで人生のすべてが満たされていた。

「エレナ様、またそんな風に若君を泥に塗れさせて……。他の側室様方に見つかりましたら、また『平民のしつけは下品だ』と揶揄されてしまいますよ」

苦笑しながら歩み寄ってきたのは、昔からエレナを支える唯一の老侍女・マルタだ。

「いいのよ、マルタ。どうせ私たちは日陰の身だもの。オーレリア様やヴェロニカ様は、私たちのことなんて眼中にないわ。それより、あちらの様子はどう?」

エレナが視線を向けたのは、後宮の中心にそびえ立つ、最も巨大で豪奢な『黄金宮』だ。
今日、あの宮の主であり、国最高峰の公爵家の令嬢である正妻オーレリアが、第一子を出産しようとしていた。

「はあ……。先ほどから、王宮の医師たちが総出で宮へ入っていくのが見えました。かなりの難産のようでございます。レオンハルト陛下も、政務を止めてお控えの間でお待ちだとか」

マルタの言葉に、エレナは胸が締め付けられるような緊張を覚えた。

正妻オーレリアの出産。これは単なるおめでたではない。クインテラ王国全体の運命を決める大博打だった。
もし、オーレリアが「男児」を産めば、その子は文句なしに次期国王、つまり『東宮(世継ぎ)』となる。名門貴族の血を引き、正妻の子。完璧な王の誕生だ。

だが、もしも――生まれたのが「女児」だった場合。
クインテラ王国の狂った法律が、もう一つの牙をむくことになる。

『正妻の子が娘であった場合、世継ぎの座は、すでに子どもを産んでいる側室の中で【最年長の妻の子】が継ぐものとする』

つまり、オーレリアが女の子を産んだ瞬間、この泥だらけでトカゲを追いかけている平民の血を引くアルフレッドが、国のトップである『世継ぎ』になってしまうのだ。

(そんなこと、あるはずがないわね……)

エレナは自嘲気味に微笑み、アルフレッドの柔らかな髪を撫でた。
神々の悪戯でもあるまいし、あの誇り高きオーレリアが、そんなヘマをするはずがない。
きっと五分後には、黄金宮から「元気な大公子の誕生」を告げる鐘が鳴り響くはずだ。
そうすれば、自分たちはこれまで通り、この静かな翡翠宮で、誰に目をつけられることもなく平穏に暮らしていける。

「アル、お部屋に入って温かいスープを飲みましょう」
「うん! 僕、お腹空いちゃった!」

アルフレッドの手を引き、エレナが部屋へ歩き出した、その時だった。

――ドォォォォン。

地を震わせるような、重々しい大鐘の音が、王宮全体に鳴り響いた。
一度、二度、三度……。
それは、出産を知らせる鐘だった。
後宮中の侍女や側室たちが、一斉に窓を開け、あるいは庭へ飛び出し、黄金宮の行方に耳を澄ませる。

固唾を呑んで待つエレナたちの前に、一人の若い伝令の兵が、息を切らせて走ってきた。
その顔は、慶事に沸くような明るいものではなかった。
むしろ、世界の終わりを目撃したかのように真っ青に変色し、ガタガタと震えていた。

伝令兵は、翡翠宮の庭にいるエレナの姿を認めると、その場に崩れ落ちるように膝をつき、地を這うような声で叫んだ。

「ほ、報告いたします……! 本日正午、正妻オーレリア様、無事にご出産あそばされました……!」

エレナの心臓が、ドクンと大きく跳ねる。

「……生まれたのは、男児ですか?」

エレナの問いに、伝令兵は涙を流さんばかりの恐怖の表情で、こう告げた。

「ひ、姫様です……! 正妻様がお産みになられたのは、大変可愛らしい、王女殿下でございます……!!」

その瞬間、世界から音が消えたように、エレナの思考が停止した。
王女。女の子。
正妻が産んだのは、娘。

ということは、法律に従えば――。

「……あ」

隣にいたマルタが、持っていたお茶のトレイをガシャーンと地面に落とした。
陶器の割れる鋭い音が、現実を引き戻す。

伝令兵は、震える頭を地面に擦り付けながら、国中の誰もが予想だにしなかった、しかし法律が定めた絶対の「宣告」を口にした。

「法に則り……これより、第一側室エレナ様のお子、アルフレッド若君を、クインテラ王国の『第一王位継承者』――次期国王として指名いたします!!」

頭上を、冷たい風が吹き抜けていく。
アルフレッドは何もわからず、
「お母様、どうしたの?」とエレナの服の裾を引っ張っている。

エレナは、ゆっくりと黄金宮の方を見上げた。
そこからは、歓声ではなく、恐ろしいほどの沈黙と、そして地を這うような、強烈な「殺意」の気配が、風に乗って翡翠宮へと押し寄せてくるのが分かった。

平穏な日々は、完全に終わった。
クインテラ王国のドロドロとした底なしの沼が、エレナ親子の足を掴んで引きずり込もうとしていた。


「王女誕生」の報がもたらした衝撃は、一瞬にして後宮の空気を凍りつかせた。

翡翠宮の室内へと戻ったエレナは、ガタガタと震えが止まらない手で、温かいハーブティーのカップを握りしめていた。
隣の部屋では、何も知らないアルフレッドが、マルタに付き添われて無邪気にお絵描きをしている。
その笑い声すら、今のエレナにとっては張り詰めた糸を刺激する凶器のようだった。

「エレナ様……大変なことになってしまいました。まさか、オーレリア様が姫様をお産みになるなんて……」

マルタの声は完全に上ずっていた。
長年後宮の底辺で生きてきた老侍女には、これから降りかかるであろう嵐の大きさが容易に想像できたのだ。

「ええ……。法律は絶対よ。これで、アルが次の王になる権利を得てしまった」

エレナは青ざめた顔で窓の外を見つめた。
クインテラ王国において、法律は神の言葉と同義だ。
いくら平民の血が混じっていようと、最年長側室の子であるアルフレッドが世継ぎになるという現実は、国王レオンハルトであっても簡単には覆せない。

だが、それは同時に「アルフレッドを殺せば、権利は次の側室の子へ移る」ということでもあった。


その日の夕刻。
黄金宮から、一通の書状が届いた。
差出人は第二側室のヴェロニカ。
正妻オーレリアの腰巾着であり、もっともエレナを目の敵にしている公爵家の令嬢だ。

『オーレリア様の王女誕生を祝し、また、アルフレッド若君の世継ぎご指名を記念して、ヴェロニカより祝いの膳をお贈りいたします。若君の大健勝を祈って、特製の仕出しスープをご賞味ください』

届いたのは、銀の器に盛られた芳醇な香りのするコンソメスープだった。
運んできたヴェロニカの宮の侍女は、慇懃無礼な態度で頭を下げながら、エレナを値踏みするような視線を向けてくる。

「ヴェロニカ様からのありがたいお言葉、確かに受け取りました。若君が起きましたら、さっそく頂戴いたします」

エレナが努めて冷静に答えると、侍女は「では、必ず若君の口に入るよう、よろしくお願いいたしますね」と言い残し、不気味な笑みを浮かべて去っていった。

部屋に取り残されたエレナとマルタ。
スープからは、鼻をくすぐる美味しそうな香りが漂っている。
だが、エレナの勘が、全身の毛穴を逆立てて叫んでいた。――これに手を出すな、と。

「マルタ。銀の匙を」

「は、はい……!」

マルタが差し出した一本の銀の匙を、エレナは静かにスープの底へと沈めた。
張り詰めた沈黙が部屋を支配する。一秒、二秒、三秒……。

「……っ!」

マルタが短い悲鳴を上げて口を覆った。
スープに浸かった銀の匙の先端が、またたく間に不気味な青黒さに変色していったのだ。

「毒……。やっぱり、毒だわ……!」

エレナは手から滑り落ちそうになる匙を握り直した。
まだ法律が発動して半日も経っていない。
それなのに、正妻派の第二側室ヴェロニカは、もう躊躇なくアルフレッドの命を奪いにきたのだ。
「不慮の食中毒」に見せかけて、平民の子を葬り去るために。

もし、自分が何も気づかずに、このスープをアルフレッドの口に運んでいたら――。
想像しただけで、エレナの背中に冷や汗が吹き出し、激しい怒りと恐怖で目の前が真っ暗になった。

「エレナ様! すぐに陛下へ、レオンハルト陛下にお知らせを! ヴェロニカ様が若君を暗殺しようとしたと訴え出ましょう!」

マルタが取り乱して叫ぶが、エレナは変色した匙を見つめたまま、冷徹に首を振った。

「だめよ、マルタ。このスープはヴェロニカ様の侍女が持ってきたけれど、『運ぶ途中で誰かが混入した』と言い逃れされたらそれまでだわ。かえって、こちらが正妻派を陥れようとしたと因縁をつけられるかもしれない。今の私たちには、公爵家に対抗できる後ろ盾がないのよ」

この後宮において、無力な正義は命取りになる。
エレナは毒の入った器を静かに押し退け、固く拳を握りしめた。

「誰も守ってくれない……。国王陛下も、法律も、私たちの味方じゃない。アルを守れるのは、母親である私だけ……」

その時、エレナの瞳から、それまでの弱気で大人しい「平民の娘」の光が完全に消え去った。
冷たく、鋭く、命がけで獲物を守る猛獣のような光――「魔女」としての覚醒の兆しが、その瞳に宿った。

「マルタ、このスープは秘密裏に処分して。それから、明日からアルの食事は、すべて私たちが毒見をします。一滴の水、一切れのパンに至るまで、絶対に目を離さないで」

「は、はい……!」

エレナが覚悟を決めたその夜。翡翠宮の重い扉を叩く、予期せぬ足音が響いた。
現れたのは、滅多に側室の宮へ足を運ぶことのない人物――この国の絶対の支配者であり、夫である国王レオンハルトだった。


エレナの放った痛烈な宣戦布告は、大理石の東屋を深い静寂で満たした。
ハンカチを握りしめ、屈辱と怒りで顔を真っ赤に染めて震える第二側室ヴェロニカ。
他の側室たちも、いつもは影のように薄い存在だったエレナの豹変ぶりに、息を呑んで硬直している。

「……ふん。言うようになったじゃないか、平民」

その沈黙を破ったのは、低くハスキーな笑い声だった。
声を上げたのは、第五側室のブリジェットだ。
騎士家系の出身である彼女は、身に纏う豪奢なドレスすら窮屈そうに見えるほど、引き締まった肢体と野生的なオーラを放っている。ブリジェットは鋭い蜂蜜色の瞳でエレナを睨みつけると、楽しげに口角を上げた。

「私はてっきり、お前が自分の息子の立場に怯えて、部屋の隅でシクシク泣いているとばかり思っていたよ。だが……そのツラ構え、悪くない。我が子を守るために牙を剥く親の顔だ」

「ブリジェット様、何を仰るのですか! このような無礼な平民の戯言を――」

ヴェロニカが金切り声をあげるが、ブリジェットはそれを手で制し、椅子の背もたれに深く寄りかかった。

「うるさいよ、ヴェロニカ。スープの件が本当なら、姑息な真似をして失敗したお前の方がよっぽど見苦しい。私はね、後宮のネチネチした陰謀劇が大嫌いなんだ。これからは少しは面白くなりそうじゃないか」

エレナはブリジェットの言葉に深く頭を下げた。敵ばかりの後宮において、この武闘派の第五側室が自分に興味を示したことは、今後の大きな布石になるはずだと直感した。

「皆様、お騒がせいたしました。それでは、私はこれで失礼いたします。アルフレッドが起きる時間ですので」

エレナは凛とした足取りで東屋を後にした。背中に突き刺さるヴェロニカの殺意に満ちた視線を感じながらも、その歩みが揺らぐことは二度となかった。



翡翠宮へと戻る道すがら、エレナの背後から軽い足音が近づいてきた。
振り返ると、そこには先ほど東屋で声をかけてきたブリジェットが、護衛も連れずに一人で歩いてくる姿があった。

「ブリジェット様……? 私に何か御用でしょうか」

エレナが警戒を崩さずに問うと、ブリジェットはふっと不敵に笑い、エレナの目の前で立ち止まった。

「さっきの東屋での啖呵、大したもんだ。だがね、エレナ。言葉だけで我が子を守れるほど、この後宮は甘くない。ヴェロニカの実家や、幽閉されている正妻オーレリアの公爵家が本気を出せば、お前たち親子の命なんて、明日の朝には消えているよ」

ブリジェットの言葉は冷酷な現実だった。エレナは小さく息を呑み、まっすぐに彼女の瞳を見返した。

「存じております。ですが、私は何があっても諦めません」

「いい返事だ」

ブリジェットは満足そうに頷くと、エレナの肩をバシッと力強く叩いた。

「気に入ったよ、エレナ。私は強い奴の味方だ。公爵家たちの鼻を明かしてやるのも一興だからね。これからは、私が陰ながらお前とアルフレッド若君の盾になってやる。その代わり、お前はその知恵で、私を退屈させない国を作ってみせろ」

「ブリジェット様……! ありがとうございます」

初めて得た、物理的な「武力」という頼もしい味方。エレナは胸の奥が熱くなるのを感じ、ブリジェットの手を固く握り返した。こうして、二人の間に秘密の同盟が結ばれた。


ブリジェットという心強い協力を得て、エレナは翡翠宮の防衛を完全に固めた。
マルタと共に行う徹底した毒見、そしてブリジェットの手配した信頼できる衛兵による夜間の警備。
ヴェロニカたちがその後も仕掛けてきた、いくつかの小規模な暗殺の芽は、エレナの機転とブリジェットの武力によって、ことごとく闇の中で叩き潰されていった。

「お母様、今日のスープもとっても美味しいよ!」

アルフレッドが笑顔でスプーンを動かす姿を見て、エレナは心の底から安堵していた。
正妻派の陰謀を退け、後宮での発言権を少しずつ拡大していくエレナ。
状況は確実に、エレナたち親子に有利な方向へと傾きつつあった。

しかし――クインテラ王国の歪んだ法制度は、そんな一時の平穏さえも許してはくれなかった。

「世継ぎ決定」の激震から数週間が経ったある日。
クインテラ王国の巨大な城門が開き、一台の極めて豪奢な馬車が後宮へと入ってきた。
それは、建国以来の『五妻一子の法』がもたらす、最後の、そして最も破壊的な爆弾の到来を告げるものだった。

「エレナ様! 大変でございます……!」

息を切らせて部屋に飛び込んできたマルタの顔は、あの王女誕生の時と同じくらい、白く強張っていた。

「どうしたの、マルタ。落ち着きなさい」

「第、第六の側室様が……入内あそばされました……!」

「第六の側室……?」

エレナの眉がピクリと跳ねる。
法律では「五人以上の妻を持つこと」が定められている。
すでに正妻と五人の側室がいたが、ここにきてさらに新しい妻が追加されたのだ。
その名は、リリィ。

急ぎ、全夫人たちが集められた中央広場へ向かうと、そこには息を呑むような光景が広がっていた。

馬車から降りてきたのは、まだ十代半ばと思しき、信じられないほど可憐なあどけなさを残した少女だった。
絹のような白い髪に、大きな潤んだ瞳。
その姿は、ドロドロとした後宮にはおよそ不釣り合いな、まるで天界から舞い降りた天使のようだった。

「リ、リリィと申します……。皆様、どうぞよろしくお願いいたします……っ」

怯えたように体を震わせ、今にも泣き出しそうな声で挨拶をするリリィ。
その弱々しい姿を見て、ヴェロニカやフィオナは「ただの小娘か」と鼻で笑い、興味を失ったように視線を外した。

だが、エレナだけは違った。
リリィが周囲を見渡す中で、一瞬だけ、エレナとリリィの視線が交差した。
その刹那――リリィの瞳の奥に、怯えた少女の仮面の裏側に潜む、ゾッとするほど冷酷で、底の知れない「闇」をエレナは明確に目撃した。

(この娘……ただ者ではないわ)

エレナの背筋に、嫌な汗が伝わる。
そして、その日の夜、後宮の勢力図を根底からひっくり返す最大の異変が起きる。

入内初日の夜、国王レオンハルトが向かったのは、正妻の宮でも、世継ぎの母となったエレナの翡翠宮でもなかった。
王は目もくれず、新しく入ってきた第六の側室、リリィの寝所へと直行したのだ。

それだけではない。翌日も、その翌日も、レオンハルトは毎夜、取り憑かれたようにリリィの宮へと通い詰め、彼女を異常なまでに溺愛し始めた。

後宮に激震が走る。
この国において、まだ子どもを産んでいない妻の寵愛は、他のすべての妻たちへの死刑宣告に等しい。
もし、あの可憐な顔をした第六の側室リリィが、レオンハルトの夜ごとの寵愛によって「男の子」を産んでしまったら――。

法律の解釈が変わり、最年長側室であるエレナの息子の立場は、再び奈落の底へと突き落とされることになる。

リリィの宮から漂う、妖しく甘い香香。
そして、毎夜リリィを抱き続ける王レオンハルトの真意とは一体何なのか。

「アル……何があっても、お前は私が守るわ」

暗闇に包まれる後宮を見つめながら、エレナは愛息を強く抱きしめた。
正妻派との戦いを制したエレナの前に、今、リリィという名の「史上最強の敵」が立ちはだかろうとしていた。
クインテラ王国を揺るがす狂気の後宮サバイバルは、ここからさらに加速していく。