急いでスーツケースを持って、ベンツから降りる。
一歩踏み出した時、私は思わず顔を上げる。
「……え。」
目の前にあったのは、想像していたものとはまるで違った。
ガラス張りの大きな入口。その奥には柔らかな間接照明が灯り、磨き上げられた床が夕暮れの光を淡く反射している。入口脇には上品な観葉植物が置かれ、控えめなロゴが壁に刻まれていた。
どう見ても、普通の美容院ではない。
……高級サロンのような。
スミレと理子さんは高級サロンの中に入っていく。
え、これ、理子さんの店なの?
………私、まだ12歳なんだけど、入っていいの?
セレブとかが入る店じゃなくて?
っていうか、ここで男装するんだよね。
………どうしよう。
「…日凪、今日おかしいわよ。わたしの言うことが聞けないのかしら。」
ぼうっとしていたらスミレが店から出てきて、私に迫ってくる。
「すみません。少し……驚いてしまって。以後気をつけます。」
今はさすがに外だから手は出してこないだろうけど.......。
スミレはゴミを見るような目で私の腕を掴み、引きずりながら言った。
「早く入りなさい。」
強制的に中に入らされ、男装は免れることは当然無理だった。

