翌朝。
御神影家で迎える初めての朝餉に、小春は背筋を伸ばして膳の前に座っていた。
「綾、菊乃。お茶が出ていないわよ」
志乃が若い女中に静かに指摘する。綾がすぐに返事をし、目配せで菊乃が茶の準備を始める。無駄口は聞かず、静かに素早く動く。
小春の目の前に並べられた料理は、思わず息を飲むほど豪華だった。
湯気を立てる味噌汁、香ばしく焼かれた魚、艶やかな白米に、彩りよく添えられた副菜の数々。どれも質素とは程遠く、ひとつひとつが丁寧に作られていることが伝わってきた。
(こんな……立派なものを、朝から……)
圧倒される品数に、小春は持った箸を浮かせたまま、まばたきを繰り返した。
向かいに座る朔夜は、昨夜の荒々しさが嘘のように静かに食事を口へ運んでいた。その所作は無駄がなく淡々としている。ただ、その瞳がふと、動かずにいる小春の指先へと静かに向けられた。
「口に合わぬか」
不意に、低く落ち着いた声がかけられた。
控えていた鷹宮が、さりげなく様子を窺いに近寄る。
問いかけられ、小春は一瞬言葉を失った。
「いえ……その……」
どう答えるべきか迷いながらも、小春は正直に口を開く。
「朝から、こんなに立派なお食事をいただいたことがありませんでしたので……」
その言葉に朔夜と鷹宮が目を見開いた。
(鈴白の家では、これほど細い娘に一体どんな食事を……)
沈黙が、一瞬だけ部屋に流れる。
だがすぐに表情を戻し、朔夜が鷹宮へと一瞬だけ視線を送った。鷹宮は静かに頷いた。
「それでは、小春様のお口に合うものをお持ちします」
ほどなくして志乃が運んできたのは、焼きたての卵焼きだった。ふわりと甘い香りが白い湯気と共に立ちのぼる。
小春は戸惑いながらも箸を伸ばし、そっと口に運ぶ。じんわりと広がるやさしい甘みに思わず目を見張った。
(……おいしい)
ただ贅沢な味ではない。どこか安心するようなぬくもりがあった。じわっと胸が温かくなり、小春の表情が自然とほころぶ。
小春の様子を見た鷹宮が、ひとつ満足そうに咳払いをする。
「朔夜様をお支えするには、まずはしっかり召し上がっていただかねばなりません」
静かな声音だったが、言葉の重みは明確だった。
小春は思わず、自分の細い腕へと視線を落とす。指先に力がこもり、膝の上でそっと握りしめた。
(……私では足りない、かな)
一瞬、そんな思いが胸をよぎる。けれど、すぐに昨夜のことが浮かんだ。自分の菓子で確かに彼は救われたのだ。
(……支えると決めた)
ゆっくりと息を吸い、小春は顔を上げる。
(食べることも、お務めね!)
小春の瞳に、きゅっと真っ直ぐな光が宿る。
そして、もう一度、箸を取った。



