花に溺れ、香りに溶ける




「妬いてるわけじゃ、ないですよ」

「知ってる。……でも、僕は妬いてほしいんだけどな」


 思いがけない返しに、言葉に詰まる。


「美寿が誰かに嫉妬してくれるところ、一度でいいから見てみたい。……僕ばっかり必死になってるみたいで、たまに不安になる」


 その本音に、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。


「碧斗さまはそれだけ、私のことを想ってくれてるんですね」

「うん。……だから、少しは意識してほしい。他の男に見せる顔と、僕にだけ見せる顔、ちゃんと分けてくれてるかどうか」


 碧斗さまはそれだけ言うと、逃げるように車に乗り込んで、稽古場を後にした。

 残された私は、しばらくの間、彼の去っていった方角を見つめ続けていた。