花に溺れ、香りに溶ける





「はいはい、余計なことは言いません……って、ちょっと碧斗くん、露骨すぎない?」


 千夏さんが、呆れたように笑う。


「別に。ただ、千夏が美寿に近づきすぎてる気がしただけ」

「近づいてないでしょ、普通の距離感だし」

「僕にとっては近すぎる」


 あまりにも真顔で返されて、千夏さんも私も、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。


「……冗談のつもりじゃないんだけどな」


 碧斗さまは、少し不満そうに呟くと、私の腰に回した腕に、わずかに力を込めた。


「もう、仕方ないな。花材の件はまた連絡するね。美寿さんも、また会いましょう」


 風のように去っていく千夏さんの背中を見送りながら、私は今聞いた言葉を、そっと心の中で反芻していた。

 ――美寿さんの前だと、さっきからずっと違う顔してる。

 それが本当なら、碧斗さまが私にだけ見せる表情には、やっぱり特別な意味があるということになる。


「……変なこと、聞かせてごめん」


 碧斗さまが、珍しく気まずそうに髪をかき上げた。


「千夏さんとは、仲がいいんですね」

「幼馴染ってだけだよ。それ以上でも以下でもない」


 あまりにもきっぱりとした否定に、逆に少しおかしくなる。誰も、そこまで疑っていないのに。