花に溺れ、香りに溶ける




 回廊の向こうから、静かな足音が近づいてくる。振り返ると、そこには扇子を手にした百合乃さまが、こちらをじっと見つめて立っていた。傍らには、給仕の女性が一人控えている。


「随分と、親密そうね」


 その声には、先ほどまでの穏やかさが、綺麗に消え失せていた。


「母さん、いつから――」

「そう長くはいないわ。……ただ、美寿さんが私に見せた表情と、あなたに見せている表情が、あまりにも違いすぎて気になっただけ」


 百合乃さまは扇子を閉じると、静かにこちらへ歩み寄ってきた。


「二人とも、少し私に付き合ってもらえるかしら。……確かめたいことが、あるの」


 連れて行かれたのは、庭園の一角にある離れの茶室だった。にじり口をくぐると、既に炭が熾された炉が切ってあり、香炉と、見慣れた香木の包みがいくつか用意されていた。