花に溺れ、香りに溶ける






「――蓮水、その組み方だと、三種目と五種目の香りが喧嘩するよ」

 声をかけてきたのは、五つ上の兄の佐山煌太(こうた)だった。次期家元として、香名『佐山國嘉(くによし)』を父から与えられている。

「……もう一度、聞かせてください」

「うん。焦らなくていい。美寿は筋がいいんだから」


 兄は柔らかく笑うと、私の隣に座り直した。

 佐山の親戚からは、昔からよく言われる。『煌太くんより美寿さんの方が、才能があるんじゃないか』と。

 きっと悪気のない、お世辞が混じった褒め言葉のつもりの一言だと思う。けれど、それを聞くたびに、私は居たたまれない気持ちになる。兄は誰よりも真面目に、誰よりも長く香道と向き合ってきた人。私なんかよりもずっと……その努力を、血筋や勘の良さだけで追い越してしまうような真似は、絶対にしたくなかった。