花に溺れ、香りに溶ける





 三年前の茶席の時の記憶を、もう一度手繰り寄せてみる。

 あの日、私は着慣れない振袖に身を包み、緊張しながら会場の隅に立っていた。香道・華道・茶道、都内の伝統芸能の家元筋が一堂に会する、年に一度の大きなお茶会。

 香道の家元の娘として挨拶回りをしなければならないのに、緊張して身動きが取れずにいたのを覚えている。

 周りは大人ばかりで、同世代の子どもは片手で数えるほどしかいなかった。
 兄は既に次期家元として人々に囲まれて挨拶に忙しく、父も業界の重鎮たちと話し込んでいて、声をかけられる相手がいない。

 俯いたまま、着物の帯の柄を意味もなく指でなぞっていたとき。


「君、退屈そうだね」


 顔を上げると、そこには見たこともないくらい整った顔立ちの少年が立っていた。今よりも少し幼さの残る、けれどすでに人を寄せ付けない冷たさを纏った表情。


「……そんなに、分かりやすかったですか?」

「うん。この会場で心から楽しんでる顔をしてる人間なんて、ほとんどいないけどね。君はその中でも、一番つまらなそうだった」


 初めて聞いた彼の声は、今よりもずっと素っ気なくて、けれどどこか面白がっているような響きがあった。