「え……?」
「最初はそうだった。翡翠の代わりに、君で胸の穴を埋めようとしてた。……でもね、もうそんなの、とっくにどうでもよくなっちゃったんだ」
驚きに揺れる彼女の瞳を、逃がさないように、一世一代の熱を込めて見つめ返す。
「君が不格好なおにぎりをみんなに配ってるのを見た時も、俺がいない間に寂しがって泣いてくれた今も……俺の頭の中には、翡翠の面影なんてひとかけらもない。───ただ、花梨ちゃん、君のことで、頭がパンクしそうなんだよ」
「紺、さん……」
「身代わりなんかじゃない。俺が今、こんなに余裕をなくして、誰にも渡したくないって狂いそうになってるのは、……君だからだよ」
───吐き出した本音は、俺が今まで誰にも見せたことのない、泥臭くて、みっともないほどの執着だった。
彼女の瞳から、また新しい涙が溢れ出す。
……けれど今度は、寂しさの涙ではなかった。
「……本当に、私で、いいんですか? 私、お料理も下手だし、すぐ洗濯物踏んで転びそうになるし……、なんの役にも立たないのに……っ」
「それがいいんだよ。俺が一生、君の足元を見ててあげるからさ」
堪えきれずにふっと笑うと、いつもの柔らかいトーンが少しだけ戻ってきた。
「……っ、もう、またすぐそうやって、からかう……っ」
泣き笑いのような顔で、花梨ちゃんが俺の胸にコト、と小さく額を預けてくる。
その無防備な肯定の合図に、俺の理性の最後の手綱が、ぷつりと音を立てて千切れた。



