───『俺の、本当の女の子になってよ』
低く、命令するような熱を孕んだ声が、静まり返った廊下に鼓動となって響く。
花梨ちゃんは、大きく見開いた瞳からハラハラと涙をこぼしたまま、完全に硬直していた。
頬を包み込む俺の両手の熱に。
そして、いつも貼り付けていた嘘つきな笑顔を完全に消し去った俺の視線に。
彼女は、怯えるように肩を小さく震わせる。
「……っ、な、にを、言ってるんですか、紺さん……」
彼女の唇から漏れたのは、必死の拒絶ではなく、今にも夜の静寂に溶けて消えてしまいそうな戸惑いだった。
「だって……私、葵さまに選んでもらえなくて、家からもいらないって言われて、ここに置いてもらってるだけで……。紺さんだって、翡翠さんのことが、まだ……っ」
泣きじゃくりながら、彼女は自分の胸元を小さな手でギュッと握りしめる。
───あぁ、やっぱり。
彼女の言葉が、俺の胸を容赦なく抉った。
この子は、全部気がついていたんだ。
───俺が自分の傷を隠すために、彼女を”都合のいい身代わり”として隣に引きずり込んだことに。
天然で危なっかしいこの小動物は、俺の最低な打算を、その純粋さゆえに敏感に察知して、それでも黙って俺の隣で笑ってくれていた。
───激しい後悔と、それ以上の愛おしさが脳内で暴れ狂う。
「……ごめん。本当に、最低なことをした」
頬に添えていた手をゆっくりと下ろし、代わりに、彼女の華奢な両手を手繰り寄せて、俺の胸元へと押し当てた。
衣服越しに、うるさいほど狂ったリズムを刻む心臓の音が、彼女の手のひらへとダイレクトに伝わる。



