片想いが終わる頃、恋が始まる。【完】

***


───数日ぶりに戻ってきた本家のお屋敷は、いつも通り静まり返っていた。



張り詰めた交渉の席、飛び交う怒号、冷徹な大人の世界。


三日間の緊迫で擦り切れた頭と、重いコートが肩に食い込むような疲労。




一刻も早く自分の部屋に戻って、布団に倒れこみたかったはずなのに。


気が付けば足は、屋敷の奥───彼女の部屋へと向かっていた。






(……もう、寝てるよね)



夜中の2時。



当然だと思いながらも、障子の隙間から漏れる頼りない橙色の明かりを見つけた瞬間。


胸の奥で、カチ、と小さなスイッチが入った気がした。





コンコン、と指の背で小さく音を立てて、彼女を怯えさせないようになるべく優しい声で囁く。



「───花梨ちゃん? まだ起きてるの?」






───次の瞬間だった。



障子が激しい音を立てて引き開けられ、夜の冷たい空気が爆ぜる。


目の前に現れたのは、小さなパジャマ姿の、俺のからかい相手。




「───紺さん……っ!」


驚きで、言葉を失う暇すらなかった。



視界がぐらりと揺れたかと思うと、俺の胸元に、柔らかな───けれど、壊れそうなほどの勢いで小さな体が飛び込んできた。


ドンッ、と不器用な衝撃が響く。