***
───数日ぶりに戻ってきた本家のお屋敷は、いつも通り静まり返っていた。
張り詰めた交渉の席、飛び交う怒号、冷徹な大人の世界。
三日間の緊迫で擦り切れた頭と、重いコートが肩に食い込むような疲労。
一刻も早く自分の部屋に戻って、布団に倒れこみたかったはずなのに。
気が付けば足は、屋敷の奥───彼女の部屋へと向かっていた。
(……もう、寝てるよね)
夜中の2時。
当然だと思いながらも、障子の隙間から漏れる頼りない橙色の明かりを見つけた瞬間。
胸の奥で、カチ、と小さなスイッチが入った気がした。
コンコン、と指の背で小さく音を立てて、彼女を怯えさせないようになるべく優しい声で囁く。
「───花梨ちゃん? まだ起きてるの?」
───次の瞬間だった。
障子が激しい音を立てて引き開けられ、夜の冷たい空気が爆ぜる。
目の前に現れたのは、小さなパジャマ姿の、俺のからかい相手。
「───紺さん……っ!」
驚きで、言葉を失う暇すらなかった。
視界がぐらりと揺れたかと思うと、俺の胸元に、柔らかな───けれど、壊れそうなほどの勢いで小さな体が飛び込んできた。
ドンッ、と不器用な衝撃が響く。
───数日ぶりに戻ってきた本家のお屋敷は、いつも通り静まり返っていた。
張り詰めた交渉の席、飛び交う怒号、冷徹な大人の世界。
三日間の緊迫で擦り切れた頭と、重いコートが肩に食い込むような疲労。
一刻も早く自分の部屋に戻って、布団に倒れこみたかったはずなのに。
気が付けば足は、屋敷の奥───彼女の部屋へと向かっていた。
(……もう、寝てるよね)
夜中の2時。
当然だと思いながらも、障子の隙間から漏れる頼りない橙色の明かりを見つけた瞬間。
胸の奥で、カチ、と小さなスイッチが入った気がした。
コンコン、と指の背で小さく音を立てて、彼女を怯えさせないようになるべく優しい声で囁く。
「───花梨ちゃん? まだ起きてるの?」
───次の瞬間だった。
障子が激しい音を立てて引き開けられ、夜の冷たい空気が爆ぜる。
目の前に現れたのは、小さなパジャマ姿の、俺のからかい相手。
「───紺さん……っ!」
驚きで、言葉を失う暇すらなかった。
視界がぐらりと揺れたかと思うと、俺の胸元に、柔らかな───けれど、壊れそうなほどの勢いで小さな体が飛び込んできた。
ドンッ、と不器用な衝撃が響く。


