片想いが終わる頃、恋が始まる。【完】

***


───それからというもの。



彼女は俺を新たな心の拠り所にし、俺もまた、胸に負った失恋の傷を彼女で癒していくようになった。



翡翠の代わり───そう聞くと、聞こえは悪いかもしれない。



それに、俺自身。

……花梨ちゃんに翡翠の面影を求めていたのは事実だ。



でも───



「もう、紺さん! すぐそうやってぼんやりして……私の話聞いてますか?」

「聞いてる、聞いてる。花梨ちゃんが可愛いなって思って見てただけだよ」


血に塗れたこの世界では珍しい、純粋な笑顔に癒されていたのも紛れもない事実で。



「なっ……!す、すぐそういう嘘つきます!」


嘘じゃないよ、と心の中で苦笑する。




最初は歪んだ理由で隣に置いたはずの、ただの"身代わり"。


───なのに。

予想を遥かに超えて、真っ直ぐに、危なっかしいほど素直に感情をぶつけてくるこの小動物から、いつの間にか目が離せなくなっていた。



本当は俺が、彼女を利用しているつもりだったのに。

……気がつけば、彼女のふとした笑顔やウブな反応に、冷え切っていた心の穴が、本物の体温で満たされそうになっている。




(……ずるいよ。そんな顔されたら、本当に好きになっちゃうじゃん)





自分が仕掛けた"お試しの恋"という罠に、俺自身のほうが嵌りかけていることに、彼女はまだ何も気づいていない。



俺は小さく目を細めると、赤くなってそっぽを向く彼女の腕を、少しだけ強引に引き寄せた。



「……紺さん?」

「ううん、なんでもない。……ほら、立ち止まってたら置いてっちゃうよ」


始まりがどんなに最低で、歪んだ打算からだったとしても。


───俺はもう、この腕の中に収まった小さな体温を、手放してあげるつもりなんて、毛頭なかった。