──あぁ、そっか。
彼女はただ傷ついて、ボロボロで、どうしていいかわからなくて。
だからこそ、同じように切ない視線を送っていた俺の秘密に、直感で気づいてしまったんだ。
「で、でもっ…… わ、私は、紺さんのこと、結構好き、です……なので…っ…」
泣くのを堪えて強がっていた彼女が、俺のために……そして自分のために、今、大粒の涙を流している。
その健気な姿を見ていたら、不思議と、胸の奥に微かに残っていた翡翠への未練が、綺麗に溶けていくような気がした。
俺は彼女の前にゆっくりとしゃがみ込み、目線を合わせる。
いつもの優しい笑顔のまま、でも、声だけは少しだけ低く、熱を帯びた。
「ね、……俺たちで恋、してみない?」
「え……っ?」
「君も、葵のことを忘れたいんでしょ? ───俺もね、ずっと忘れられない人がいるんだ。……お互いに、傷つけられた者同士、フリだけでもいいからさ」
驚きに固まる彼女の顔が、涙で濡れたまま、夕日よりも真っ赤に染まっていく───……
「それでさ、見せつけてやろうよ。"俺たちはもう、こんなに幸せになりました"って」
……本当は、それは俺の願望から来た、都合のいい制約なのかもしれない。
あるいは、
『お前も早くいい相手、見つけろよ』
あの幸せそうな二人に対しての当てつけ。
俺と花梨ちゃんのため、とか言っておいて……これも、"利用"のうちに入るのかもしれない。
───でも。
ここまできたのなら。
……最後まで、"ごっこ"に付き合ってもらうよ。
(……覚悟しといてね、花梨ちゃん)
お互いの失恋を"過去"にできるくらい───君を、俺を……幸せにしてみせるから。


