片想いが終わる頃、恋が始まる。【完】

***


─――時を遡ること、数日前。


この屋敷の空気がガラリと変わった日のことを思い出す。





花梨ちゃん──もとい、小鳥遊花梨(たかなしかりん)は、元々葵の正式な婚約者だった。




家同士の都合で、前々からこの本家のお屋敷で暮らしていた彼女。


───だが、

葵が翡翠を選び、愛を貫いたことで、婚約はみごとに破断。



挙句、彼女の実家である小鳥遊家は、高瀬組からの援助を失い──”役に立たなかった娘”として、実の娘までも見放してしまったそう。



元々”若頭の婚約者”としていたお屋敷に、今度は”行き場のない居候”として残ることになった彼女は……どれだけ惨めで、辛い思いをしたのだろうか。









───そのあまりにも寂し気な後ろ姿を、俺はある日、夕暮れ時の廊下の物陰で見つけた。




柱の陰から、庭の向こうで仲睦まじげに笑い合っている葵と翡翠の姿を、じっと見つめていた花梨ちゃん。



───かつて自分が隣に立つはずだった場所。

そこにある圧倒的なハッピーエンドの光景を前に、彼女は泣き出すのを必死に堪えるかのように、お屋敷の飼い猫のマロを両手でぎゅーーっと抱きしめて、身を縮めている。



それが、あまりにも切なくて。

なのに、どこか小動物めいた必死な姿に、気がつけばそっと隣に並んで声をかけていた。




「……大丈夫? そんなところで小さくなってたら、誰かに踏まれちゃうよ?」


ビクッと顔を上げた彼女の瞳は、今にも涙がこぼれ落ちそうなくらいに潤んでいて。




「あ……。紺、さん……」


「そんなに泣かないの。ほら、あっちにおいしいお菓子があるから……」


いつものように、柔らかい笑みで茶化して、その場を和ませようとした───その時だった。