「……あの二人、またやってるよ」
隣を歩く花梨ちゃんの肩をポンポンと叩いて、前方を顎で指さす。
────視線の先には、仲睦まじげに肩を寄せ合って歩く、葵と翡翠の姿。
二人がそのまま部屋へ消えていく後ろ姿を見送りながら、俺はそっと息を吐き出した。
───驚くほど、もう、何も感じなかった。
ついこの間までは。
翡翠がアイツの腕の中にいるのを見るだけで、胸が引きちぎられそうなほど痛かったのに。
今の俺の心にあるのは、
(……ほんと、相変わらずバカップルだなぁ)
という、どこか呆れたような
でも、穏やかであたたかい祝福の気持ちだけ。
「俺が身を引いてあげたんだから、それくらい幸せになってもらわないと困るけどね」
クスッと笑いながら呟くと、その小さなつぶやきを聞き取ったのか、隣を歩く彼女が不思議そうに顔を上げた。
「紺さん、何か言いましたか……?」
「ううん、なんでもないよ。……それより花梨ちゃん、さっきの話の続きだけどさ」
ゆっくりと歩き出しながら、俺はいつもの柔らかい笑みを浮かべたまま、彼女の顔を覗き込む。


