指先そっと、触れて今

「えー……だってさぁ、小金井さんとばっかりいるじゃん。」
「そうですか?皆さんと仕事をしている時間の方が多いですが。」
「そうじゃなくて、仕事以外の話は俺らとしないじゃんかー……。」
「……?小金井さんとも皆さんの話しか最近はしませんし、皆さんとも皆さんの話しかしません。仕事以外の話をしている暇は今はあまりないですね。……というか、本当にお疲れのようですね。そんな中、インカムマイクに触れるタイミングも、息を吸うタイミングも完璧でしたよ。歌声が聞こえる前からわかっていました。『今日も大丈夫』だと。」

 瑞樹が完全に顔を上げて結陽を見つめると、結陽は一度頷いてから微笑を浮かべた。

「指先がそっと触れて、ああ今なんだなと私は確信しています。今、一番声が出る瞬間を作ったのだと。新島くんにはそういうルーティンにも似たものがあります。そして私はそういう瞬間を見落とさないように、たとえば隣に小金井さんがいても別の方がいても、モニターを凝視してしまうんですよ。」

 照れる様子も何もなく淡々と紡がれる言葉たちが瑞樹の鼓動を容赦なく上げる。確かに言われてみると、インカムマイクには触れている。しかしそんなところを見られているとは思わなかった。それは歌う前の動作であって、歌っているときの動きではないからだ。

「……そんなとこ、見てんの?」
「皆さんに関わることの裏側を担うのが私の仕事であり、私のしたいことです。」

 そう言い切った瞬間の表情はきりっとしていて年上らしくかっこいいのに、その数秒後にふっと気の抜けた笑みを浮かべると可愛いのだからたちが悪い。敵わない、この人には。

「ゆーひちゃん、さぁ。」
「何で下の名前で呼ぶんですか。さっきの私の話、聞いていましたか?」
「聞いてたから、俺らしかいないここで言ってるんだけど。」
「えっと、そうではなく。誰もいないからとかではなく、そもそも下の名前で呼ぶ必要がないと言っています。」
「必要なくても、呼びたいからはダメなの?」
「……ダメです。」
「なんで?」

 面倒に思われてしまうことはわかっていても食い下がってしまう。だってこの人は真面目だから。問いを投げればいつまでだって付き合ってくれる。そういう人だ。そのまままじまじと結陽を見つめていると、ほんのりと少しずつ結陽の耳が赤く染まっていく。

「え…?」

 思いもよらない表情の変化に、思わず自分の間抜けな声が残る。