指先そっと、触れて今

 昔からずっと、『アイドル』というものが好きだった。ステージ上でキラキラと輝く、アイドルが。女性アイドルでも好きなグループはいたし、男性アイドルもしかり。そしていつか、そんな人たちのサポートをしたいと思うようになった。
 今の仕事を選んだ始まりの気持ちはそんなものだったように思う。原初の記憶が朧げになりつつあるのは、今担当しているアイドルの人気が急上昇したことに伴って私自身が多忙になってしまったからだ。

(……あの子たちにお昼を食べさせるのは確実にやったけれど、私が食べるのは完全に忘れていた……)

 今にも腹が鳴りそうだったが、ぐっと腹部に力を入れて誤魔化した。大型の音楽番組は舞台袖も忙しい。スタンバイに行く背中を見送ったのはついさっきだ。ゆっくりとモニター前に移動して、他のマネージャーや関係者の邪魔にならない位置に立つ。

「随分忙しそうじゃないですか、木野さん。」
「小金井くんの方だって忙しいでしょう?」
「まぁうちはうちで忙しいですけど、木野さんの秘蔵っ子たちほどじゃないですよ。」
「はは、ありがとうございます。」

 小金井は事務所こそ違うがおそらくマネージャー歴は同じくらいの、現場でよく顔を合わせる間柄だ。それに二人ともアイドルを担当していることもあって顔を合わせない週は滅多にないほどよく会う。
 適当に生返事をしつつ、視線はモニターばかりを見つめていた。次は彼らの出番だ。控えている様子をモニター越しに見ているが、表立っておかしな様子はない。この子たちはどんな時でも生で歌唱することにこだわっている。たとえ少しダンスを緩めたとしても声は届けたい。それを実現させるためにボイストレーナーもそれぞれ必死になって探した。その甲斐あって、生放送の番組の前でも物怖じすることはないのは頼もしくもある。

(ああ、始まる。)

 スポットライトが切り替わり、メンバーカラーのライトが背後からまっすぐに彼らを照らす。フォーメーションが変わって、順番に歌が繋がれていく。しかし、結陽(ゆうひ)の視線はテレビに映る前のモニターの方に注がれていた。
 インカムマイクに少しだけ触れる指。自分の声がジャストで入るその位置に収まったマイクに、ニッと彼の口角が上がる。喉仏が上に動き、今日もあの歌声が耳に届くことを確信する。

(……昔から好きなんだよね、インカムマイク、クイっとやる仕草。だからつい見ちゃう。)

 もちろん、彼、『新島瑞樹(にいじまみずき)』は一番手がかかる子だから尚更見て確認してしまうという理由が一番大きい。