恋の練習のはずが、若手社長の溺愛に蕩かされています~声フェチ女子は断れない~

 そんな郁は総務部で働く二十四歳。

 茶色のロングヘアに、優しげな目元の顔立ちという容姿だ。

 外見も平凡な自分がまさかこんな想定外の大接近イベントに出くわすとは、夢にも思わなかった。

「こういうタイプの人には今まで会ったことがなかったが……。ふむ……」

 気まずさに縮こまる郁の前で風早はあごに手を当て、なにか考える。

 やがて顔を上げ、郁を見た。

「少しこちらへ寄ってくれないか?」

 だがそう言われて郁は、ドキッとしてしまう。

 もちろん近付けば、声がもっと近くで聴こえるからだ。

 だが相手は社長だ。断る選択肢などない。

「は……はい」

 郁はドキドキや不安を抱えつつ、ベッドの端のほうへ寄り、座り直す。

 その郁のほうへ、風早からも身を乗り出して……。

「汐見……さん……?」

 声を潜めて呟かれた言葉に、郁の心臓は跳ね上がった。

 あのイケボが……自分の名前を……発した……。

 囁くのにも近い、潜めた、艶を帯びた声で……。

 思い知って、心臓はドクドクと高鳴り、頬も真っ赤になる。

 彼はきっと意識的に色っぽい声を出したのだろうが、それでも郁には刺激が強すぎた。

「……へぇ、本当に声だけで意識してくれるのか。ちょっと面白いかも……」