恋の練習のはずが、若手社長の溺愛に蕩かされています~声フェチ女子は断れない~

 やわらかな響きを帯びた低音は、普段聴くときは大抵穏やかな調子で発される。

 朝礼で聴ける生声は特に魅力的だ。

 真剣に話す硬い口調も、男性らしくクールな印象。

 どれも郁の耳に心地良く感じられた。

 これほど好みの声は歌手や声優、俳優の歌やトークでも出会ったことがない。

(もし彼氏がああいう声だったら、とろとろに蕩かされちゃいそう……)

 そんな妄想だってしたことがある。

 もし魅力的な声で甘い言葉を囁かれでもしたら、一発で恋に落ちそうだ。

 だが身近にあるこのイケボの持ち主に関しては、そんな妄想が現実になるわけがない。

 彼は若手社長で、おまけにイケメン。最初から雲の上の存在だ。

 だから入社式で彼の声に一瞬で魅了されても、恋愛対象ではなかった。

(あんないい声、会社で聴けるだけでも恵まれてるよ)

 本心からそう思い、満足していた。