恋の練習のはずが、若手社長の溺愛に蕩かされています~声フェチ女子は断れない~

「もしもし? 停止してしまったのは六階あたりの……」

 背後から聞こえる声は、やわらかな響きを帯びた低音である。

 若い男性らしくハリのある声だが、今は心配する気持ちが滲んでいる。

 そんな声を、背後……というより頭の真上から浴びて、社内の一社員である汐見(しおみ) (いく)の頭はくらくらしていた。

 今、話している彼は、郁の勤めるこの会社・風早(かぜはや)コーポレーションの若手社長だ。

 乗り合わせたエレベーターが緊急停止したのだが、オペレーターに連絡した郁の後ろから、風早が補足してくれたのだ。

 百八十センチを越す彼が少し身を乗り出して喋れば、その声は小柄な郁の頭のすぐ上から聴こえるわけで……。

(ひぇぇ……! イケボを間近で浴びられるとか、刺激が強すぎるよ~~~!)

 彼の声に、郁の頭と体の中は甘く痺れた。

 なぜなら郁がイケボ……イケメンボイスと認識している彼・風早 玲音(れお)のこの声には特別に惹かれていたからだ。

 郁が説明できないうちに、連絡は風早によって済んでいた。

「すぐに復旧しそうだ。狭い場所に俺と一緒で申し訳ないが……」

 目途が立って安心したらしい風早がそう言ったのだが、郁はもう、まともに返事もできなかった。

 彼の声から受けた刺激が強すぎる。

「……どうした、具合でも悪いか? 顔が真っ赤だ」

 そんな郁の様子は、どうも風早に誤解されたようだ。

 心配そうに顔を覗き込まれた。

 これも身長差によって、だいぶ近くで聴こえるわけで……。