「まだ仕事はかかりそうなのか?」
「いえ。ちょうど終わったので、帰ろうと思っていたところです」
「そうか」
自分のデスクに向かった係長は、忘れたというスマホを手にして画面を確認している。そのスマホケースの裏側に、見覚えのあるステッカーが入っていることに気づいた。
「あれ? それって、音ラブ・フェスのステッカーですよね?」
つい最近、オンライン上でリズムゲーム配信フェスが開かれた。そこに参加した人なら誰でも送付してもらえるオリジナルステッカーだ。リスナーとして参加した私も持っている。
――んん? よくよく思い返してみたら、係長の声って、誰かの声に似ている気がする。どこか安心する、甘くて心地のいい低音ボイスは……。
「もしかして……京本さん?」
ぽつりとその名を漏らせば、係長の肩が、ほんのわずかに跳ねたのが分かった。
「……宮本さん。もう仕事は終わったんだろう?」
尋ねられたその問いに頷いて返せば、係長は気まずそうに首裏のあたりに手を回してこう言った。
「それなら、これから飯でも食べに行かないか」



