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「はあ、やっと終わった」
終業時刻十分前に、途中から数字を打ち間違えて入力していたことに気づいてしまった。
急ぎの案件ではないけど、今日は金曜日だ。
仕事が中途半端なまま週末休みを迎えるのは、何だかすっきりしない。だから少し残って仕事を終わらせていくことにした。
壁掛け時計を見れば、時刻はあとわずかで二十時になるところだった。
我が社は、なるべく残業をせずに定時で帰ることを推奨しているホワイト企業だ。それもあってか、現在、経営企画部に残っているのは私だけ。
作り終えた資料をしっかり保存してから、PCの電源を落として帰り支度をする。
だけど帰る前に少しだけ、残業を頑張ったご褒美を見ていくことにした。
昨夜のアーカイブ配信を開いて、推し実況者の京本さんの声を堪能する。
『ここのステージ、めっちゃむずない? うわ、やば。めっちゃミスってもうたわ』
声だけでも、すごく焦っているのが伝わってくる。ふふ、かわいいな。
“カーンッ”
――背後で、何かが落下したような音が響いた。
まさかこの場に私以外の誰かがいるなんて思っていなかったから、完全に気を抜いていた。自分の肩が思いきり跳ねたのが分かる。
慌てて配信を停止して振り返れば、三メートルほど離れた場所に橋本係長が立っていた。
足元には缶コーヒーが転がっているから、さっきの落下音はこれだろう。



