「よければ、また一緒に飯でも行かへん?」
「……それって、業務命令ですか?」
「いや」
目を細めた係長が、さらに顔を近づけてきた。
係長の口元が、私の耳元のすぐそばで止まる。
「口説いてるんやけど」
――そう、耳元で囁かれた。
「……その声でそんなこと言うのは、ずるくないですか?」
「そうやで。俺、こう見えてかなりずるい男なんや。宮本さんが俺の関西弁に弱いてゆうんなら、有効活用せなあかんやろ?」
確信犯の顔で笑っている係長に向かって、
「……しょうがないので、口説かれてあげます」
と照れ隠しの言葉を返せば、係長は子どもみたいに無邪気な顔で笑った。
ただの上司と部下であり、出会うはずのない実況者とファンでしかなかった関係性に、“恋人”という新たな名前がつけられることになるのは、それからすぐのことだった。



