雨の降る日はジャズバーへ ――Cats that gather at night――

 さっきまでは左手首に付けていなかった、銀色のブレスレットを付けて、一人でステージにあがった。
 レンが出てくると観客は歓声で盛り上がる。

 レンが左手の人差し指を、マイクに近づけると……観客は一斉に静かになった。
「今日も来てくれてありがとう。オリジナルの曲を三曲歌います。最初の曲は、I will gently embrace you(優しくあなたを抱きしめます)」

 目をつぶると、スピーカーからメロディーが響く。

 息を飲むように溜めながら、高々と響くトランペット。だが、寂しさを抱える心を震える音色。その寂しさを追いかけるようにピアノが加わる。心を締め付けるように感じるドラムと、ウッドベースの心臓の鼓動のような重低音が加わる。

 テンポがゆっくりで、どこか寂しさと色っぽさがある音色。これは、雨の寂しい夜にふさわしいSlow Jazz Ballad(スロー・ジャズ・バラード)だ。

 レンが作り出す世界に観客も私も完全に飲み込まれた。

 右手を上にして、両手でマイクを持ち、願うように歌い続けながら、曲が進むほど、マイクを強く掴んだ。
 甘い声で切なく囁くように歌うサビのフレーズが、私の心を掴んで離さない。