雨の降る日はジャズバーへ ――Cats that gather at night――

 ひたすらに走ってきたから、人が居ることは気づかずに、大きく息を切らしている姿を見られて、凄く恥ずかし思いで居心地が悪かった。

 帰りたくても、こんな大雨で帰れない。隅で静かに下を向いて、立ち尽くすことしか出来なかった。

「隅に立っていると、雨に濡れちゃうよ」立って近づき、手を掴んだ。

 見ず知らずの彼の手は、温かい。
 雨で手が濡れて冷たいから温かく感じた訳ではない。

 なぜか、心までも温かく感じた。

 名前の知らない彼は、私をベンチにゆっくりと座らせた。正面に移動して彼も座る。

 このとき、初めて顔を上げた。東屋の中には電気がなく、外にある街灯だけだ。

 街灯の光が、彼を背にしてかっこよく見えて……ドキドキした。
 
 スタイルがよくて、白のワイシャツを着ていた。左耳にピアスをつけていて、顔立ちも美形だった。

 思い返せば、声も凄く綺麗だった。男性の中では、少し高い声で、甘く感じる声で耳に残った。

 寂しそうな顔をしながら「雨は好きだけど、深夜の外で一人きりは寂しかった」微笑みながら「もしよかったら、お話でもしない?」

 彼のニッコリした笑顔を見たら「いいよ……話そう」無意識返事をしていた。

「まだ。名前も聞いてなかったね。俺は、レン。年齢は二十二才」
「私は……美琴です。年齢は二十四才です」


 自己紹介のあとは、とりとめのない話に、花を咲かせた。

 普段会話する相手もいないのに、楽しく話せたのは、レンが話し上手だったからだと思う。誰かと互いに笑いながら、話したのは何年ぶりだろ。

 まだ、話していたい。ずっと雨が止まなきゃ良いのに……。

 雨が止まないことを祈りながら、楽しい時間を過ごした。