陽炎に揺れる夢

その日の放課後。

「遠野…」

ずっとモヤモヤしていたのだろう。
帰ろうと教室を出た私を、朝比奈君が呼び止めた。

周りに人がいないことを確認してから、

「あのさ、少し話せないか?」

と、そっと声をかけてきた。

「遠野は、電車通?」

私はコクリと頷く。

「ここから三駅先の降りてすぐのところに、ファミレスがあるんだけど、その駅は通り道?」

もう一度、首を縦に振る。

「そっか。じゃぁ、そこで待ってるから来てくれない? そこなら誰にも気づかれないと思う」

ただ私はコクリと首を動かすだけ。

「先に行ってるね」

そう告げると、朝比奈君は私を追い抜いていった。

私は、ドキドキしている胸を押さえた。

(いつぶりだろう。同じ学校に通う人とどこかに行くのは……。)

しかも、二人きりでなんて初めてだ。
その上、異性とだなんて……。

そこに恋愛感情がないのはわかっているけれど、なんだか緊張してしまう。

うるさい心臓を落ち着かせるように、私はゆっくりと指定されたファミレスへ向かった。

お店に入り、店内を見回す。

すると、手を挙げている人が目に入った。

(朝比奈君……だよね。)

彼は先にドリンクバーを頼んでいたらしく、飲み物を飲むためにマスクを外していた。

近づくと、

「遠野の分もドリンクバー頼んであるから、飲み物取ってきなよ」

と、目を右奥に向けた。
その先には、「ドリンクバー」と書かれたコーナーがある。

「ありがとう」

小さく言って、飲み物を取りに向かった。
アイスティーを手に、遠慮がちに朝比奈君の向かいに座る。

「なぁ、遠野。なんで、俺が『何かを諦めてる』って思ったのか、聞かせてくれないかな。来て早々悪いんだけど、今日一日、ずっと気になってて……」

席に着くなり、朝比奈君は身を乗り出して私を見た。

「……図星だったんだよ。諦めてるって……」

朝比奈君は、ドカッと椅子の背もたれに体重を預けるように座り、少しだけ天井を見上げた。

何かを考えているように、彼はその姿勢のまま動かなくなった。

それから、何かを決意したような瞳で私に向き直った。

「俺、モデルになりたいんだ」

静かに、大切なものをそっと置くようにそう言って目を閉じた。

「……なりたい、っていうか。なりたかった、かな」

自嘲するように小さく笑ってから、視線を私に戻す。

「長くなるけど、いいか?」

私は、何も言わずに頷いた。

そして朝比奈君は、ゆっくりと、自分の話を始めた。