あの日をきっかけに、二人の会話は徐々に増えていった。
(美化委員の仕事中限定だけど)
二人とも親近感を感じて話しやすかったのだろう。
あるいは、お互いになぜ人の目から隠れるようになってしまったのか理由を知りたいと思っていたのかもしれない。
少なくとも、私は朝比奈君が陽炎を纏っている理由を知りたかった。
私に陽炎が見え始めてからというもの、他の人たちから見える陽炎は、『やりたいものを決めるためのジャンケン』で負けると、ほんの一瞬だけゆらりと揺れるようなものだった。
でも今、ここにいる彼の周りは、ずっと陽炎が揺れ続けている。
(朝比奈君は、どんなことを諦めてしまったのだろう…)
廊下を掃いている彼の靄(もや)のかかったような後ろ姿を見つめた。
「九州北部地方に梅雨明けが発表され、各地で厳しい暑さとなっています。」
今朝のニュースで、九州の方では梅雨明け宣言が出されたと言っていた。
そろそろ、今降っている雨も上がるだろう。
昇降口から空を見上げた。
登校してくる人の流れが落ち着いた時、朝比奈君が話しかけてきた。
「遠野のパンダ、調べてみたんだ。何かのキャラクターかと思って。そうしたら、ハンドメイドのインスタしか出てこなかった」
「えっ…」
私は驚いて言葉を失った。
「あ、ごめん、キモかったかな。でも、その色の配色とかセンスあるなと思ってさ」
「……」
「もしかして、それ、遠野のインスタじゃない?」
私は下を向く。
(気づかれた? 誤魔化せる? でも…)
朝比奈君なら、話しても構わないような気がした。
コクンと頷く。
「そっか、やっぱりな。なんとなく、遠野の気がしたんだよ。過去の作品も見たけど、人物は全然映ってなかったからさ」
顔を上げる。
分厚い前髪が私の表情を悟らせないだろう。
でも、なんだか気付いてもらえたのが嬉しかった。
「遠野ってさ、なんで顔を隠してるんだ? あれだけの技術やセンスがあるんだったら、クラスでも話題の中心になれるだろうに」
「……」
二人はそのまま黙った。
「そんなこと、ないか…。それとこれとは話が違うよな…」
朝比奈君は、寂しそうに笑った。
「ごめん、変なこと言って。インスタのことは誰にも言わないから」
じゃあ行こうか、と歩き出した朝比奈君のブレザーを、思わず掴む。
「あ、あの……朝比奈君は?」
「朝比奈君は、何を諦めているんですか?」
朝比奈君はハッとなり、眼鏡の奥で目を大きく見開いた。
キンコンカンコーン……
チャイムが鳴った。
最後の音の余韻が消えるまで、私たちはその場に立ち尽くしていた。
(美化委員の仕事中限定だけど)
二人とも親近感を感じて話しやすかったのだろう。
あるいは、お互いになぜ人の目から隠れるようになってしまったのか理由を知りたいと思っていたのかもしれない。
少なくとも、私は朝比奈君が陽炎を纏っている理由を知りたかった。
私に陽炎が見え始めてからというもの、他の人たちから見える陽炎は、『やりたいものを決めるためのジャンケン』で負けると、ほんの一瞬だけゆらりと揺れるようなものだった。
でも今、ここにいる彼の周りは、ずっと陽炎が揺れ続けている。
(朝比奈君は、どんなことを諦めてしまったのだろう…)
廊下を掃いている彼の靄(もや)のかかったような後ろ姿を見つめた。
「九州北部地方に梅雨明けが発表され、各地で厳しい暑さとなっています。」
今朝のニュースで、九州の方では梅雨明け宣言が出されたと言っていた。
そろそろ、今降っている雨も上がるだろう。
昇降口から空を見上げた。
登校してくる人の流れが落ち着いた時、朝比奈君が話しかけてきた。
「遠野のパンダ、調べてみたんだ。何かのキャラクターかと思って。そうしたら、ハンドメイドのインスタしか出てこなかった」
「えっ…」
私は驚いて言葉を失った。
「あ、ごめん、キモかったかな。でも、その色の配色とかセンスあるなと思ってさ」
「……」
「もしかして、それ、遠野のインスタじゃない?」
私は下を向く。
(気づかれた? 誤魔化せる? でも…)
朝比奈君なら、話しても構わないような気がした。
コクンと頷く。
「そっか、やっぱりな。なんとなく、遠野の気がしたんだよ。過去の作品も見たけど、人物は全然映ってなかったからさ」
顔を上げる。
分厚い前髪が私の表情を悟らせないだろう。
でも、なんだか気付いてもらえたのが嬉しかった。
「遠野ってさ、なんで顔を隠してるんだ? あれだけの技術やセンスがあるんだったら、クラスでも話題の中心になれるだろうに」
「……」
二人はそのまま黙った。
「そんなこと、ないか…。それとこれとは話が違うよな…」
朝比奈君は、寂しそうに笑った。
「ごめん、変なこと言って。インスタのことは誰にも言わないから」
じゃあ行こうか、と歩き出した朝比奈君のブレザーを、思わず掴む。
「あ、あの……朝比奈君は?」
「朝比奈君は、何を諦めているんですか?」
朝比奈君はハッとなり、眼鏡の奥で目を大きく見開いた。
キンコンカンコーン……
チャイムが鳴った。
最後の音の余韻が消えるまで、私たちはその場に立ち尽くしていた。



