陽炎に揺れる夢

日曜日。

雪が降りそうな真っ黒な雲が、空を埋め尽くしていた。

あまりの寒さに、外に出ている人は少ない。

昨日、「パイロット帽が完成した」と朝比奈君にメッセージを送ると、

「明日、写真撮る?」と返事があった。

それなら、ということで十六時に、いつもの公園で待ち合わせをした。

「寒かったね、今日は。ここまで来てもらっちゃって、ごめんね」

私は、朝比奈君にホッカイロを差し出した。

「防寒対策してきたから大丈夫。夏にコートを着た時より、大変じゃないよ」

そう言って、イタズラっぽい笑顔を見せた。

寒い中、朝比奈君に付き合ってもらうのが申し訳なくて、私はさっそく撮影の用意を始めた。

「パイロット帽、これなんだけど……」

袋から出して朝比奈君に渡すと、彼はそれを目の前まで持ち上げ、全体を見るために、くるくると回している。

「かっこいい……これ、すごいな遠野。やっぱりセンスいいよな」

「被っていいか?」と聞いたけれど、私の返事を待たずに、もう被っていた。

「うわ、よく似合うよ。見てみる?」

そう言って、私はスマホでミラーのアプリを立ち上げ、朝比奈君に差し出した。

でも、朝比奈君はぎゅっと目を閉じて、

「いや、遠野が写真を撮り終わるまで、見るのはやめておくよ。最後の楽しみに取っておく」

「えー、そんなこと言われたら、なんか緊張しちゃうね。頑張る」

二人で笑うと、鼻に冷たいものが当たった。
手のひらを出すと、そこに雪が舞い落ちる。

「雪だ……」

私たちは、そのまま空を見上げた。

私は少し後ろに下がり、空を見上げている朝比奈君を、斜め後ろから撮影する。

コートと同じ、チャコールグレーのパイロット帽。

耳とおでこの部分はファーの毛糸で編み、質感を変えてある。

耳のところには、普通の毛糸で編んだ小さなポケット。

そして、帽子とそのポケットを縁取るように、夕焼けのような色のラインを入れた。

そのオレンジが、降ってくる雪によく映えていた。

後ろ姿は、朝比奈君にしゃがんでもらって、上から撮影した。

そして――。

「朝比奈君、前からも撮りたいんだけど……今日は、顔を隠せるものがないの。どうしようか……」

朝比奈君は、雪で濡れてしまった眼鏡を外し、ポケットにしまった。

「マスク、したままでもいい?」

「そうだね……そうしようか……」

そう言った、その時。

「あっ!」

急に上げた私の声に、朝比奈君はビクンと肩を揺らした。

「そうだ! いいこと思いついた」

私は自分の鞄まで走った。

「ちょっと待ってて」

私は、朝比奈君用に作ったスマホケースを取り出す。

「これ、朝比奈君にあげようと思って作ったの。これを今、朝比奈君のスマホに付け替えてくれないかな?」

朝比奈君は少し不思議そうな顔をしながらそれを受け取ると、

「これ、俺の? ありがとう」

と言って、すぐに付け替えてくれた。

「すごい、かっこいい」

「良かった。喜んでもらえて」

「でね、それを横にして、顔の前で構えてみて。私を写真で撮ってるみたいに。
そうすれば、口元が隠せるし、私の作品も写せる。一石二鳥」

「なるほど」

と言って、朝比奈君はスマホを横向きに、両手で構えた。

その瞬間を、私は写真に収める。

朝比奈君の穏やかな目。

私の二つの作品。

そして、雪。

なんて、優しい写真なんだろう。

私は何も言わずに、朝比奈君にスマホを差し出した。

朝比奈君は、息を呑んだ。

「……これ、俺か?」

それ以上、言葉は出なかった。

何かが解けていくような温かさが広がり、私たちを包んでいった。

ただ、朝比奈君の陽炎だけはその姿を消していた。