名もなき空に、青い風が吹く

 「こんな質問を投げかけた先生にちょっと
文句言いたいです。答えがないんだから話し
合っても仕方なかったですよね」

 「そこはまあ、目ぇ瞑ってやるしかないな。
先生にだって先生の都合があるだろうからな」

 ははは、と二人で肩を揺らす。空に向かっ
てまっすぐ伸びるガザニアが、水しぶきを浴
びて黄色く咲き乱れている。やっぱり中庭で
過ごす時間は癒しだ。こんな風に話せる大人
がいて、よかった。空に浮かぶ雲が茜に染ま
るまで赤垣さんとおしゃべりをしたわたしは、
いつも通り玄関のドアを開ける勇気をもらっ
て家路に就いた。歩きながら夕陽に焼けた風
を吸い込んだ胸は、ほんのり焦げていた。





 「ほわぁ」

 中学から女子に囲まれて過ごしていたわた
しは、共学ならではの活気に間の抜けた声を
漏らしてしまった。お花紙で作られたピンク
のアーチをくぐると、かつてない喧騒に包ま
れる。クラスTシャツを着て呼び込みをする
男子たちの声、グランドの方から聴こえる軽
音楽部の歌声とざわめき、色とりどりの傘が
吊るさった入り口の前で自撮りをしている人
たちの笑い声が空に突き抜ける。そんな活気
に満ちた文化祭の空気に圧倒されながら昇降
口へ進んで行くと、ふいにメイド服を着た厳
つい男子がぬうっと現れた。

 わたしはビクッと肩を震わせる。

 「校内の案内図でぇーす。楽しんでいって
くださいね♡」

 見た目からは想像もつかない見事な裏声で
そう言ってチラシを渡してくれた男子に、思
わず笑みが零れてしまう。

 「アリガトウゴザイマス」

 チラシを握りしめ、ぺこっと頭を下げると、
わたしは大翔の待つ展示会場へ向かった。

 階段を上り、見知らぬ学校の中をどきどき
しながら歩く。廊下でたむろする男子の視線
を意識しながら、案内図を頼りに早足に進ん
で行く。三階の西側にようやく写真部の看板
を見つけたわたしは、ほっと息をつき、恐る
恐る中を覗いた。暗幕が敷かれた教室の中は
薄暗く、白いパネルに飾られた写真だけがく
っきりと浮かび上がっている。